中部大学教育研究18
79/122

が用いられることになった。ただし、話がここで終われば、上記の碑文のように、現代英語でthouを使用することはなかったかもしれない。1611年、当時の王であるJamesIにより『欽定訳聖書』が出版される。この聖書では二人称代名詞は、単数形と複数形で区別されており、聞き手が1人の場合はthouが用いられていた。当時から聖書は権威ある書物であったため、その中で用いられる表現も神聖な意味を持つようになる。その結果、日常的にはthouを使用しなくなったが、聖書の表現や格言、形式張った表現では、依然としてthouが用いられ続けた。そのため、オハイオ大学の学生が入学時に通り抜けるゲートの碑文にも用いられているのである。また、thouが用いられる場合は、特別な形態の動詞が選ばれる。先ほど挙げたthoumayestという組み合わせのほか、thouwilt,thougoest,thoucomest,thouhastなどがある。英語の歴史について学ぶ機会は少ないようで、教員にも大学院生にも、今回の発表は関心を持ってもらえたようである。さて、「枕」として用いたAlmuniGateであるが、キャンパスからアップタウンに向かう側の景色は写真6のような眺めである。こちら側には次の1文が刻まれている。Sodepartthatdailythoumayestbetterservethyfellowmen,thycountryandthyGod.写真6AlmuniGate(キャンパス側)オハイオ大学長期海外研修に参加している、本学の学生は、このゲートに刻まれている2つの文のような心持ちで、研修を始め、終えてくれているだろうか。6AldenLibrary筆者の研究対象である古い時代の英語は、現代のような植物性の紙ではなく、羊皮紙(より一般的には獣皮紙)に書かれていた。時にはきらびやかに装飾された、そのような写本は高価で貴重なもののため、通常は見たり、触ったりすることはできない。最近ではデジタル化した写本を公開しているサイトもある。マイクロフィルム(マイクロフィッシュ)で公開されているものもある。今回の目的の1つが、マイクロフィルムのデジタル化であった。オハイオ大学のAldenLibraryに配架されているAnglo-SaxonManuscriptsinMicroficheFacsimile(ASMMF)と筆者が所有しているASMMFに収録されているマイクロフィッシュの一部を、AldenLibraryに設置されている「マイクロフィルム・スキャナー」(写真7)でデジタル化の作業を行った。写真7マイクロフィルム・スキャナー本学にはマイクロフィルム・リーダーがあり、閲覧することは可能である。印刷することも可能だが、残念ながら画質は粗く、あまり実用的ではない。マイクロフィルム・スキャナーでデジタル化ができれば、コンピュータで閲覧し、印刷することができ、作業効率もよくなるだろう。本学図書館にもマイクロフィルム形式の資料が所蔵されているので、できれば、マイクロフィルム・スキャナーを導入していただけないかと願っている。さて、AldenLibraryで興味深かったことは、パソコンから印刷できるプリンタはあるが、書籍の複写ができるコピー機がなかったことである。その代わり、ブック・スキャナーがあり、図書をPDFで保存することが可能であった。マイクロフィルムに限らず、図書もデジタル化できる環境が整っている。カラー図版などはデジタル化して保存できて便利であった。ただし、図書を複写したい場合は、いったんPDFで保存したあと、パソコンを使ってプリントすることになり、作業が面倒であった。―67―オハイオ大学・アセンズでの滞在を振り返って

元のページ  ../index.html#79

このブックを見る