中部大学教育研究18
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ハイライトがかかり聞こえやすくなっているキーワードを手掛かりに内容を把握してしまおうとするアプローチである。最終的に文字言語で内容確認をしようとする段階では、学生たちは嫌いなはずであったことを忘れ、いつのまにか読んでしまっている場面が授業でよく見受けられる。4.2発音強化の手法本カリキュラムでは、「英語を声にする」ことに対する抵抗感を減らすため、日本語と英語の発音の特性の比較も含め、1年次の最初から3年次まで継続的に指導している。2014年度から行なっているのは、具体的には子音、アクセント、プロソディ(韻律)の3点を中心とした発音強化トレーニングである。これを通して、子音の発音においては、難易度順に①/f/②/v/③/s/④/z/⑤/θ/⑥/d/⑦/r/⑧/l/などの発音の習得に最も時間を要することがわかってきている。子音であれば特に摩擦音の完成が難易度が高く、適切な矯正方法を用いた指導が必要であることが明らかになってきている。一方、最初に変化が見られるのは、アクセントのつけかたやカタカナ発音からの脱却である。筆者らはこれこそ難易度が高いのではないかと推定していたが、実践結果は反対であった。子音連結や閉音節で、不要な母音を付加することなく発音できるようにすれば、音を意識的に聞き、意識的に発するトレーニングができリンキング(連結)やリダクション(弱音化)がどのように起きるのかを理解しやすくなる。英語のプロソディ(韻律)の習得に向けた指導も、リスニング力の向上に深く関連している。プロソディ指導の重点は特に次の点に置かれている。(優先順)①Highlighting:内容語と機能語の区別をし、メッセージの中の重要な内容語にはハイライトをかける。機能語などをはじめ、ハイライトをかけない部分は控えめに発音され聞こえづらくなる。②Pausing:コンマ、ピリオドなど句や節、文の区切れ目にポーズを置くだけでなく、ハイライトの前にもわずかなポーズを置く。③Duration:発音時間の長さは全て単一ではなく、ハイライトがかかる部分とそうでない部分で時間配分が異なる。④Wordgroups:ぶつ切りにしたり不自然なところで区切ったりせず、一体として意味をなす単語グループや句は一連のものとして発音する。⑤Thoughtgroups:考えのまとまりを示す、ひとまとまりとすべきメッセージや説は、ぶつ切りにしたり不自然なところで区切ったりせず、一連のものとして発音する。プロソディを重視した発音が全て完璧に習得できないとしても、音声に対するこうした意識の育成には意味がある。学生の発音のしかたとリスニング課題・テストの結果を参照すると、発音トレーニングが彼らの聞く力に顕著な影響を及ぼしていることがわかる。また、発音トレーニングは、文字と音声の連携にも結びついており、それは語彙習得や語順習得にも影響を及ぼしている。本カリキュラムでは、アメリカ英語、イギリス英語に偏りすぎることなく、どのような英語使用者にも明瞭に伝わるように発話できることを目指した発音指導を行なっている。母語の影響を受けた発音を完全に除去することは目標ではないが、どのように意識してトレーニングをすれば、相手に通じやすく構音し伝えられるのかを体得して置くことで、発話への自信を徐々に培おうとしている。学期末の評価には音読テストを含んでおり、①教科書からのパッセージを読むテストまたは②初めて目にする英文を読む新規パッセージ音読、そして③例文を文法的指示に従って完成させる文法音読の3種類がある。評価のために使用する音読評価のルールブックを開発中である。4.3ATRCALLBRIXの活用4.3.1ATRCALLBRIXの特徴ATR(国際電気通信基礎技術研究所)は、20年間に及ぶ音声言語学習機構に関する研究をしている。その成果から誕生した、コンピュータを利用した英語学習システムが、ATRCALLである。そのコンセプトを取り入れたものが本学に2013年から導入されている英語e-Learning教材「ATRCALLBRIX」で、英語の「音」にフォーカスする学習メソッドである。「聞く」「話す」「読む」「書く」の4技能を鍛える目的で、80種類以上にのぼる一番小さい学習の単位(BRIX)が構成されている。総合的な英語コース、ESP(EnglishforSpecialPurposes)コースがあるが、本学に導入されているのは、総合的なコースの入門から上級までと、ESPのうちのTOEICコースである。いずれのレベルの構成も次の3セクションから成っており各セクションには次のようなレッスンが用意されている。①「発音の基礎」音韻識別(聞き分け)、アクセント位置の識別、シラブル識別②「語彙」スペリング、単語発音評定、単語の意味(英日、日英)、単語発音と意味選択、単語発音評定③「例文」例文リピーティング(英語または日本語スクリプト―45―ATRCALLBRIXがもたらすもの

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