中部大学教育研究18
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3授業における音声面の強化の必要性3.1リスニング力強化の必要性英語が苦手でも「英語を話せるようになりたい」という英語学習者は少なくない。一方的に話す場面を除いて、双方向のコミュニケーションにおいては「話す」力と「聞く」力は切り離すことができない。実社会において対面で英語を話す機会がないほとんどない場合であっても、英語音声による情報インプット力が備わっていれば、情報収集量も増すと言える。しかしながら一概に音声重視といっても、英語音声を教室に流しておけば良いわけではなく、何の指導もしなくても英語が聞こえるようになるわけでもない。そのままでは英語の音は聞こえても、その音を処理するという重要な能力は培えない。リスニングは言語獲得の最も根源的な活動であり、母語のコミュニケーションにおいてであれば、リスニングを改めて教育する必要はないであろう。しかし、母語以外の言語においては「音声言語を聞き取る」ことは自然に行われものではなく、そのためだけの訓練が改めて必要である。それは学習者の中には母語以外の音声言語を受け止めるための枠組みが内在していないのが普通であり、そのため、ただ「聞く」だけではその音声言語を「捉える」ことができないからである。(松野、2011:76-77)松野はリスニング力の形成には次のような力が段階的に必要であると述べている。①英語の音の構成に慣れ、言語音として認知する②言語音を識別し、保持する③言語音の連続をテクスト化(綴り字で表現)し意味化する処理を行う④上記の処理を徐々に即時的にできるようにする英語学習者が一見容易そうな、「聞く力が身についた」と勘違いしやすいのが上記の①の段階までで、ここから②~④の力を培うのには、①からさらに充分なトレーニング時間が必要である。教師の重要な役割は、こうしたトレーニングプロセスにおいて適切な指導をすることである。ER学科のカリキュラムでは、図1のフォーカスが示すように、リスニングを各学年の根底に置き、1年次から4学期間をかけて段階的なリスニングトレーニングを行っている。3.2発音力強化の必要性本カリキュラムでは、発音指導にも重点をおいているが、英語を母語(L1:Firstlanguage)とする人々(NES:NativeEnglishSpeakers)の発音に近づけることを目標にはしていない。発音だけをよくして英語が流暢であるかのようなふりをさせることも目標にしていない。発音指導を組み込む最大の理由は、入学者が体験してきた英語教育の中には、音声が存在していなかったり、あったとしてもカタカナに変換されて記憶されていたりすることが少なくないためである。本カリキュラムの発音指導の目標は次の点である。①英語の音の構成に慣れ、その音の特徴を把握し、英語を聞く抵抗を減らしながら、リスニングの妨げになっていることを解消していく②英語を声にして出すことに慣れ、発話に対する不安感を減らしてスピーキングしようとする自信につなげていく英語の「標準的」な発音とは何を指すのだろうか。「英語でコミュニケーションする」人々の中には、英語をL1として話すInnerCircle(内のサークル)の話者、英語を第二言語(L2)や公用語として話すOuterCircle(外のサークル)の話者、そして英語を外国語(EFL:Englishasaforeignlanguage)として学習しているExpandingCircle(拡大サークル)の話者がいる。また、英語母語話者といっても、それぞれの英語の地域や社会的階層による言語の特性は多様である。OuterCircleの人々を加えれば、英語の多様性はますます広がる。グローバル時代においては、もはやInnerCircleやOuterCircleの国々へ出向いて行き、そこで英語を母語とする人々とコミュニケーションするということに限らず、国内にいながらInnerCircle、OuterCircleの人々とネットを通じてコミュニケーションすることも日常的に起きている。また、日本を訪れたり日本に居住したりしているExpandingCircleの人々とも、唯一の共通する言語として英語を介してコミュニケーションすることも増えている。職業や学業において英語を使うという場合はもちろんのこと、万一予期せず英語を使わなければならない場面に置かれた場合、たとえ単語のみや短いフレーズであっても、英語を自らの口から全く発する経験がなければ、突然英語を「話す」ことは難しい。3.3スピーキング力の基盤形成の必要性図2は、英語でのコミュニケーションに必要な要素を描いている。点線で囲われている部分、すなわち音声を発すること、特に単語単位だけでなく、文単位で発音することといったが強化され積み重ねるほど、「書く」「話す」といったアウトプット力が身につくことを表している。点線で囲われている部分のトレーニングなしで、アウトプット力を目指すわけにはいかないということに本カリキュラムは注目し、1年次には―43―ATRCALLBRIXがもたらすもの

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