中部大学教育研究18
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1はじめに第二言語習得研究においては、一般に、習得された言語の流暢さを決定する重要な要因は情報処理の無意識化の度合いであると考えらている(Lennon,1990)。この情報処理の自動化は、母語と第二言語間の構造的相違が大きいほど困難になるが、構造的に鏡像関係にある英語と日本語では特にそうであり(Smith,1978)、他の言語話者、特に英語と構造的に近い言語を母語とする言語話者と比べて、日本人にとって英語の習得が困難なのはいわば当然であると言えよう1)。このため、英語を英語のままで理解する速聴速解や速読速解に至るには日本語の語順にとらわれない学習法が必要となる。中でも伝統的に行われ、その有効性が示されてきたのは、同時通訳者の基礎訓練法として長年実践されてきたShadowingやSlashReadingであるが(Hamada,2011a;2011b)、このような伝統的な学習を実行に移す際のツールとして、授業での実践を通してQuizletが大変有効であることを実感したので、本稿で報告したい。Quizletはいわゆる4技能いずれの学習においても有効であるが、スピーキング、リスニング、リーディング、ライティング、本稿では特にスピーキングとリーディングの基礎練習に焦点を当てることにする。2QuizletとはQuizletは、アメリカの高校生アンドリュー・サザーランドが自分用に作成した、フランス語のボキャブラリーテスト用の学習ツールに基づいている。その基本的な機能はペアになった用語を学習するためのバーチュアルな「単語カード」で、図1に示すように、画面をクリックすることで仮想的にカードをめくることが可能である。図1Quizletの基本機能―7―Quizletを活用したスピーキング・リスニング指導大門正幸*要旨外国語学習の理想的な目標のひとつは、思考と表現の直接的な結合を確立し、母語を介在させることなしに当該の外国語で意思の疎通を図ることができるようになることである。しかし、この目標は容易に達成できるものではなく、特に日本語話者が英語を学習する、あるいはその逆の場合のように、母語と学習対象言語の言語的距離が遠い場合、その困難さは大きくなる。日本語と英語の場合に特に問題となる特性のひとつは両者の語順が鏡像関係にあることであり、この問題を克服するために様々な学習法が考案され活用されてきた。本稿の目的は、日本語話者を対象とした英語授業での実践の報告を通して、ウェブベースの学習アプリのひとつであるQuizletが、伝統的に用いられていた学習法を実行する際に大きな手助けとなることを示すことである。キーワード英語教育、スピーキング指導、リスニング指導、Quizlet*人間力創成総合教育センター語学教育プログラム(英語Ⅰ)教授

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