中部大学教育研究17
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映画の両輪を駆使しているのであるが、後でも再び触れるように、この科目で原作を読むように指定している作品は『テンペスト』である。そして、『ロミオとジュリエット』はあくまでも、文学へ、そしてシェイクスピアへと学生たちを導くための最初の作品として取り上げているのである。作品理解のために映像の力を借りるに際しては、いきなり映画を見せるのではなく、その前に「あらすじ」を記したプリントを配布している。いわば、最初からネタばれをするわけなので、興醒めなことは否めない。だが、映画を見るだけでは「あらすじ」を追えない学生が多いのも事実であり、「あらすじ」を予め知らせておくのは苦肉の対策なのである。実際のところ、「あらすじ」を読んで映画を見ても物語の流れが理解できない学生もいる。したがって、学生に「あらすじ」を読ませるのは必要不可欠なステップとなっている。「あらすじ」のプリント配布に関しても、ただプリントを配って黙読させるのではなく、学生にはそれを音読させるようにしている。というのも、「英米の文学A」は毎年履修者が60名前後いる科目ではあるが、教師の一方的な講義とならないように工夫しているからである。その工夫とは、具体的に言えば、学生中心の活動を多く採り入れ、さらに彼らの集中力が継続できる時間を考えて、頻繁に授業内容を変えるということである。「あらすじ」のプリント配布の際にも、隣の席の学生同士でペアを組ませて「あらすじ」を段落ごとに交代で音読させるようにしている。その間、教師は教室を巡回して、学生からの質問に答えながら、彼らがきちんと活動に従事するよう促すのである。ペアになっての「あらすじ」の音読が終わったところで、今度はA4の用紙を配布して、そこに「あらすじ」のプリントから読み取った物語の登場人物同士の関係図を各自で書くように求めている。この作業も順調に書き込んでいく学生がいる一方で、最初の一人、二人の登場人物の名前を用紙に書き入れたままで、なかなか先に進めない学生もいる。前者のタイプの学生は、各登場人物を自分なりに想像して、イラストを添えたりするが、それがかなり上手で感心することがある。「あらすじ」の音読と登場人物の関係図の作成には20分ほどの授業時間をあてることを見込んでいる。当然、全員の学生が関係図を完成するには至らないが、時間がきたところで、それぞれが書いた関係図をペアの相手と見比べて、共通する点や異なる点を話し合うように指示している。その後で、過去の学生が提出した物のなかで、わかりやすく明瞭にまとめられた関係図をクラス全体に配布している。これは、関係図を完成させて提出すれば、その出来によって加点するという課題に応じた、過去の学生が作成した関係図であり、工夫されたイラスト入りでオリジナリティにあふれている。つまり、物語の理解のために、現在、履修中の学生たちは先輩の書いた関係図を参考資料として使用するわけで、そのために通常の教材を使うよりも作品に対する親近感をもてるようだ。実際のところ、過去の学生の書いた関係図の有用性を実感するのは、授業中に学生がこの関係図を折にふれて参照しているのを見るときである。このように、学生に対して「あらすじ」の音読と関係図の作成を行わせた後ではじめて、教師が物語の流れを説明するが、その時間は極力短くしている。学生たちの理解を確認して、これだけは分かった上で映像を見てほしいという点だけに、説明は留めているのである。さて、その後に実際に映画の視聴に入るわけであるが、映画は一気に話の終わりまで見せることはしない。物語の展開にそって、いくつかの部分に分けて、そのセクションごとに1回の授業をあてるようにしている。学生たちに、ゆっくり、確実に理解してほしいからである。前述のように、春学期に2年生を対象に開講している「英米の文学A」ではイギリス文学を取り扱っているが、学生たちにとっては初めての文学の授業となることもあり、取り上げる作品は3つに留めている。そして、その一つ一つの作品に、4~5回の授業をあてるようにしているのである。次に、映像を見せる前に、物語のセクションごとの内容と、講義で話した背景知識などを理解しているかを問う、5問からなる小テストを配布する。これらの問いには、映像を見ながら答えさせるものもあるので、記述式ではなく、選択式で解答させる問題を出している。一つの作品に対して、3~5回の小テストを実施しており、まず映画を見る前に、隣席の学生同士でこの小テストの質問文を交代で音読させて、何に集中して作品を見るべきかの方向性を与えている。その上で、いよいよ映画の視聴に入る。そして、その日の授業で予定している部分を見終わったところで、学生に小テストへの解答の時間を与える。次に、先ほどのペアの学生同士で答あわせをさせた後で、クラス全体での解答をする。各テストについては、学生各自の理解度をはかるための基準として扱うが、すぐに成績に組み入れることはしていない。だが、これらの質問の中から必ず期末試験へ出題するものがあることは周知している。小テストにより理解すべきことを確認させつつ、仮にその点数が思わしくなくても、そのことにより作品理解への意欲が低下することのないように、このような取り扱いをしているのである。ところで、私の授業では学生証による機械での出席管理とは別に、各学生にA4用紙1枚を配布して、一学期間を通じての出席表兼成績管理表を作成している。―69―シェイクスピアの世界への誘い

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