中部大学教育研究17
82/224

る。それゆえ、学生にはぜひとも実際に作品に触れてもらいたい、それも、シェイクスピア作品を学んでほしいと考えている。なぜ、シェイクスピア作品なのか。それはシェイクスピアが英文学史上、最高の作家と目されているからということも勿論ある。学生には、シェイクスピアについて名前だけ知っているというのではなく、実際に作品の鑑賞を通じて、なにがしかの知識をもち、シェイクスピアの話題がどこかで出たときには、なんらかの受け答えができるようであってほしいと思うのである。だが、それだけが学生たちにシェイクスピアを学んでほしい理由ではない。なによりも、彼が描きだす人間の弱さや愚かさから、抱腹絶倒なコメディまで、その作品の奥深さと面白さに、ぜひとも触れてほしいからである。要するに、学生にはシェイクスピアを片鱗だけでも味わってから、英語英米文化学科を卒業していってほしいというのが筆者の切なる願いなのである。2シェイクスピアへのアプローチでは、どのようにシェイクスピアへのアプローチを始めるのかについて、次に記したい。当然のことであるが、作品に触れる前にシェイクスピアが活躍した時代背景や彼の人生、代表作などについて講義する。しかし、歴史の授業ではないので、要点を述べるに留めざるをえない。まずシェイクスピアの活躍した16世紀後半から17世紀初頭にかけてのイギリスを、エリザベス1世の人生に焦点をあてて解説する。若き女王の下、新興勢力であるイギリスが一躍、世界史の舞台に踊り出た、この時代の躍動感を解説するが、この時代が日本でいえば戦国時代であり、関が原の合戦(1600)や徳川幕府の創設(1603)の時期と重なることを指摘すると、学生にはエリザベス朝がより近しいものとして認識されるようである。さらに、シェイクスピアの人生や代表作品について言及するが、18歳のシェイクスピアが26歳のアン・ハサウェイと結婚を急がなければならなかった事情やその後、単身で故郷を出てロンドンへ向かい、俳優、戯作者、劇団の共同所有者となるまでの彼の軌跡は、常に学生の関心をひく。特に、他の細かいことは忘れても、シェイクスピアの結婚に至るまでの事情を、学生は記憶している。シェイクスピアは「文豪」というより、自分たちと同じように若さゆえの奔放さや愚かさもある人物だったと、彼らは感じるのである。このような「人間シェイクスピア」への親近感をもたせることが、彼らをシェイクスピア作品の世界へと導く第一歩なのである。よって、彼の人生についての紹介は講義には欠かせない部分となっている。次に、いよいよ作品の鑑賞へ入っていくわけであるが、「英米の文学A」では三つの作品について、各々に時間をかけて講義している。そして、そのうちの二作品にシェイクスピアの戯曲を用いている。それらは『ロミオとジュリエット』と『テンペスト』である。まず、学生たちが学ぶのは『ロミオとジュリエット』である。この作品については、名前だけは聞いたことがあるが、その内容は知らないと答える学生が大半である。なぜ、この作品を選ぶのかは、学生たちの大きな関心事のひとつである恋愛を扱っていて、とにかく彼らの興味と共感を呼ぶ物語だからである。自分たちと同世代の若者たちの恋がどのような結末を迎えるのか、その物語の成り行きにハラハラしながら、学生たちは授業にやってくる。恋の物語であるので、彼らも作品世界に入って行きやすいのである。それゆえ、彼らに対する、いささかのサービス精神も込めて、2年次の春学期に教える「英米の文学A」で取り扱う最初の作品として、『ロミオとジュリエット』を選んでいるのである。3作品理解へと導くための授業展開手順さて、『ロミオとジュリエット』が学生たちの共感を呼ぶ作品であるにしても、それをどう理解させるかはそれほど簡単なことではない。具体的に、どのような方法を用いて教えているのかを以下に説明する。まず、文学の授業であるから本を読むのが大前提なのだが、それについては昨今の学生の現状から見て、現実的な方法をとっている。つまりは、映像の力を借りるということである。本を読んで、頭の中に自分なりの壮大な絵巻を想像するという大いなる楽しみは、今ではごくわずかな学生にしか求めることのできないものとなっている。そういうわけで、「英米の文学A」の授業においても、取り扱うすべての作品について、映像の助けを借りている。しかしながら、各学期に学ぶ作品のなかの一作品については、映像を見る前でも後でも、時期は学生にまかせるが、必ず原作を読むように求めている。そうは言っても、全員の学生に文学作品の英語の原書をそのまま一冊読ませることができるかと言えば、それは現実的ではないので、日本語の翻訳版を課題図書として指定している。そして学生の読書を確実なものとするために、期末試験の相応の部分を、映画を見ただけでは答えられない、原作の抜粋からの設問にあてるようにして、その旨を学生に対して授業中に繰り返し周知している。というわけで、期末試験への準備があるので、大半の学生たちは授業で指定された原作は読んでおり、この原作を読ませるための対策は機能しているといえる。このように、「英米の文学A」では原作の翻訳本と―68―中部大学教育研究No.17(2017)

元のページ  ../index.html#82

このブックを見る