中部大学教育研究17
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読解文の読み違いをしている可能性がある。②では高度経済成長期できちんとまとめられている。また、①では具体的な例が書かれておらず、一般化されすぎており、内容が伝わりにくい。②では変化の内容が具体的に示されており、読み手がイメージできる要約文になっている。このように、Aは1人で書いた要約文を、グループワークによって完成度の高いものに向上させた。ピアとの話し合いによる効果といえよう。4内省に関する質問紙記述の結果4.1グループ要約の手順グループ要約の際、どのような手順で行ったかについては、大まかに3つの方法にまとめられる。1)互いの要約文を全て回し読みしてから話し合って書く方法。2)一番いい要約をベースに書き直す方法。3)序論、本論、結論に分けて話し合い、最後に通して書き直す方法である。グループワークを開始した直後、まず、どのような手順でグループ要約を作成するかアイデアを出し合い、検討していた。グループによっては、なかなか決められず、他のグループの手順を聞いたり、参考にしたりしながら相談し、20分近くかかったグループもあった。いずれにしても、教師の指導なしにピア同士で模索しながらグループ要約という課題を遂行していった。4.2自分の要約文とグループ要約との比較1人で書いた要約文とグループ要約を比較して内省させたところ「本文の重要な点が際立った」「簡潔で論文にふさわしい文になった」「本文の抜書きではうまく要約できないことがわかった」「ピアの要約が読めたので、まとめ方の勉強になった」等という記述がみられた。グループ要約の際は、課題遂行に集中しているため、自分の要約文が脇に置かれた状態になっていたが、改めて2つを比較することによって差(向上)に気づいたと言える。また、「本文の抜書きではうまく要約できない」という点に関しては、準備段階の要約スキルで提示し、さらに1回目、2回目の添削時に繰り返し指導した。しかし、その時点では認識されず、グループワークで初めて学習者が理解したことがわかる。教師からの提示ではなく、学習者がピアと共に学びあっていく活動の効果が感じられる点である。4.3ピアから学んだことピアから学んだことは、記述内容から「文法」「構成」「本文の内容理解」に分けられる。「文法」に関しては、「文章の呼応の重要性」「受け身形使役形の有効性」「連用中止の具体的な使い方」「論文にふさわしい文型と語彙の選択」等が挙げられた。これらも全て、日頃の授業の指導項目であり、準備段階の要約スキルの授業内容の中で強調したものである。つまり、ピアと共にグループ要約を書くことで、これらのスキルの重要性を具体的に意識したと言える。教師の添削→返却という指導では得られないピアからの刺激を受けたと言える。「構成」に関しては、「簡潔性」「事前の構成の必要性」「全体は大まかに、重要部分は具体的にまとめる」「本文のコピーではなく内容を理解してから要約する」等、要約の際の具体的な技術が示されており、学習者が重要なことを細かく分析して学んでいることがわかる。「本文の内容理解」に関しては、「ピアに本文理解の補足を受けた」「キーワードを拾い要約文に入れる方法を学んだ」「自分が本文の重要な部分を見逃していたことに気づかされた」「自分の要約は具体性に欠けていることがわかった」等、要約の前提である読解が不十分であったことに気づいたという記述が多くみられた。要約では、読解文をいかに正確に読み取って理解しているかが重要だが、授業においては教師の解説が加わるため、学習者は受け身の理解になりがちである。しかし、本実践では学習者がピアの刺激を受け、能動的に考え学んでいることが示されている。以上のとおり、内省の結果から学習者が本実践を通してピアの刺激を受け、または、無意識にピアに刺激を与え、学び合っていたことがわかる。特に、準備段階の授業において教師から提示された要約スキルが再度認識され習得につながっている様子が窺えた点は、ピア・ラーニングの効果の表れであるといえよう。5評価に関する質問紙記述の結果学習者の記述を以下にまとめる。なお、記述例はできるだけ原文を生かし、筆者が短く要約したものである。5.1学習方法の評価このような学習方法はいいと思うかという質問に対して、いいと思うと答えた学習者は13名、いいと思わないと答えた学習者は3名であった。いいと答えた理由は、「お互いに話し合いピアの考え方がわかった」「ピアの意見を聞いて、なるほどと感じた」「ピアと協力する能力が鍛えられた」「ピアの間違いに気づいた」「1人より4人のほうがアイデアが豊富だ」「自分の間違いに気付けた」「思いもよらない語彙やポイントを知った」等、個人では得られない気づきがあったこと、お互いの要約文にミスを発見し合い訂正につなげたことが挙げられた。また、ピアと協力する能力が鍛えられたという記述から、日本語能―55―上級日本語クラスにおけるピア・ラーニング

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