中部大学教育研究17
67/224

1はじめに本学語学教育センター(日本語教育プログラム)では、海外提携校からの短期留学生を受け入れ、日本語の集中教育を行っている。短期留学生の中には原籍校で日本語及び日本語教育を専攻しており、日本語能力試験N1に合格している学生も含まれている。ほぼ日本語能力上級レベルに達しようとしている留学生に必要とされる日本語能力とは何か。特に、卒業論文を日本語で書くこと、日本の大学院に進学すること、日本でもしくは母国で日系企業に就職すること等を目指していると考えると、論文作成能力の習得は不可欠である。論文作成には先行研究、文献の要約が必要であるため、「総合日本語B」の授業目標の1つに要約スキルの向上を挙げた。では、要約スキル向上に効果的な授業とはどのようなものか。これまでの授業では、以下の方法をとってきた。まず、読解する文章のレベルを徐々に上げ、ある程度内容のまとまった文が読めるように指導する。次に、要約スキルについて解説し要約させる。その後は、読解→要約→添削を繰り返す。この一連の課題を繰り返してきたが各学習者のスキル向上が感じられないというもどかしさは否めなかった。教師も学習者も共に要約と添削の回数を増やすことだけではどうスキルが変化したのか意識化されにくいのである。そこで、本実践では読解文要約の課題にピア・ラーニングを取り入れることとした。ピア・ラーニングは協働的学習の相手がピア(peer=仲間)であることを示している。つまり教室場面でのクラスメートとの学習であり、互いが対等な関係で助け合いながら学んでいくものである。日本語教育において、様々なピア・ラーニングの実践報告が示されている。舘岡(2005)は、読解の授業において学習者同士の対話によって理解を深めるピア・リーディングの有効性を検証している。また、田中(2009)は、日本語翻訳クラスでピア・ラーニングを取り入れ、口頭表現力向上に繋がったと述べている。さらに、清水(2016)はピア・ラーニングが、学習者のプレゼンテーションに対する苦手意識の軽減に効果的であったとしている。本研究は、ピア・ラーニング後に内省及び評価のための質問紙に記述させ、本実践の効果と学習者の評価を示すものである。2実践について実践は2016年11月~12月に「総合日本語B」の授業6コマで行われた。対象は海外提携校からの短期留学生13名、正規大学院留学生3名の計16名である。国籍―53―上級日本語クラスにおけるピア・ラーニング-読解文要約の課題を通して-上田美紀*1・渡辺民江*2要旨本実践は上級日本語読解の授業にピア・ラーニングを取り入れたものである。ピア・ラーニングとは学習者同士が対等な関係で共に学び合うものであり、学習者の気づきを促す効果が示されている。授業は、読解→読解文要約のスキル提示→個人での要約→グループワークでの要約→内省と評価の質問紙記述という段階を踏んで進められた。本研究では個人での要約文とグループワークでの要約文を比較した。また、内省及び評価の質問紙記述の内容から、本実践の効果と評価を示した。その結果、学習者がピア・ラーニングによって互いに刺激しあい課題を遂行したこと、要約スキルに関する様々な気づきがあったこと、教師が提示した要約スキルがピア・ラーニングによって再確認され習得に結びついたこと、学習者がピア・ラーニングに高い評価を示していること等がわかった。キーワードピア・ラーニング、読解、要約、内省、評価*1語学教育センター教授*2語学教育センター准教授

元のページ  ../index.html#67

このブックを見る