中部大学教育研究17
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らの評価は平均的に低下する可能性があると考えられる。次に、7種類のFDプログラムの中で、FDカフェを受講したときにのみ、このような現状維持効果が見られた理由について考察する。なお、下位検定の結果が有意ではなく参考資料に留まるものの、個人差変数を含む2次の交互作用効果はFD講演会の受講でもみられていた。そして、FD講演会の分析結果は、Fig.3に示したFDカフェの結果と類似していた。FDカフェはTable2で示したように、大学教育に関する教職員同士の気軽な意見交換の場として機能しており、自由な雰囲気の中で、普段は交流がない他の教職員から情報を得る貴重な機会となっている。一方、FD講演会は、大学教育等に関する最先端の知識に気軽に触れる機会を提供している。つまり、この2つは、「情報収集型のFDプログラム」としての特徴を強く持っている。この点を踏まえて、プログラムの特徴から本研究の結果を再考すると、FDカフェやFD講演会のような「情報提供型のFDプログラム」は、キャリアアッププログラムや授業サロンのような「体験型のFDプログラム」に比べ、受講者の授業評価を高める効果は全般的に弱いことが推測される。しかし、事前の授業力が高い教員が、「情報提供型のFDプログラム」を受講した場合、それを刺激として元々高い授業評価を長期的に維持できるのかもしれない。情報提供型FDプログラムが、授業力の高い教員に対してこのような現状維持効果をもつ可能性が示唆されたことは、当初の予想とは異なるものの、注目に値する結果だといえる。4.4本研究の課題と今後の検討点本研究の目的は、中部大学で実施中のFDプログラムの受講効果の有無を検討するとともに、受講効果を高める条件を明らかにすることであった。そして、分析の結果、いくつかの新たな知見を得たが、十分に検討できなかった課題も残されている。第1の課題として、本研究で得られた結果がなぜ生じたのかという理由についての実証的な検証が不十分である点が挙げられる。本稿ではFDプログラムの受講効果が得られた理由を、受講者が体験する「FDプログラムの内容」に基づいて考察しているが、現時点では推測の域を出ない。今後は、受講者へのフォローアップインタビューなど質的なアプローチも併用しながら、裏付けとなる証拠を集めていく必要があるだろう。また、本研究で見られたFDプログラムの受講効果を解釈するにあたっては、受講者が直接的に関わる「プログラムの内容」に加えて、周辺環境として存在する「プログラムの運用方法」や「プログラムの運用環境」にも目を向ける必要があるだろう。中部大学大学教育研究センターでは、「明るく、楽しく、元気がでるFD活動」「草の根のごとく浸透するFD活動」「学外にも広く公開しているFD活動」の3つをモットーに、7種類におよぶ多様な形態のFDプログラムを持続的に提供してきた。また、プログラムの受講に関しては教員の自主性に任せる姿勢を一貫して取ってきた。このような運用方法上の特徴も、受講効果の生起に影響している可能性がある。さらに、中部大学は1キャンパスに7学部32学科(募集停止6学科を含む)を置く総合大学であり、このような文化的多様性をもつ運用環境が、FDプログラムを展開するときの強みになっているかもしれない。今後はプログラムの内容以外の周辺環境にも配慮しながら、受講効果が生じた理由を複合的に考察していくことで、FDプログラムの受講効果をさらに高めることが可能になると考えられる。第2の課題として、本研究の結果は3年間の累積効果に焦点を絞ったものであり、その他の測定間隔で生じる効果については検討されていない点が挙げられる。本研究では7種類のFDプログラムの効果を個別に検討しているが、プログラムの内容によっては、効果が顕在化するまでにかかる測定間隔が異なる可能性がある。たとえば、Cumocは授業内のコミュニケーションを直接的に促進するツールであり、他のFDプログラムに比べて、利用の効果がより短期的に生じる可能性が高い。また、本研究では、キャリアアッププログラム、授業サロン、FDカフェで有意な受講の効果が見られたが、より長いあるいはより短い期間で効果測定を行うことで、本研究で見られた以上に大きな効果が検出できた可能性も残る。受講の効果がどの時点で生じ、最大化するのかを確認するためにも、今後は、さまざまな測定間隔を用いて効果を検証することが必要だろう。さらに、個々の教員に対する授業評価得点が、年を追うごとに個人内でどのように変化するのか、また、そのような個人の変化の軌跡がFDプログラムの受講によってどの程度説明され得るのかいう縦断的な視点からの分析も視野に入れることで、FDプログラムの受講効果と時間軸の関係について、さらなる洞察を得ることが可能になると考えられる。第3の課題として、本研究の結果を新たなFDプログラムの開発につなげる必要性が挙げられる。本研究では、教員の元々の授業力の高低とは無関係に、FDプログラム(特に、キャリアアッププログラムと授業サロン)の受講が、教員の授業開発および授業方法の向上に効果的であることを示した。さらに、FDカフェの受講が、授業力が高い教員にとって特別な効果を持―30―中部大学教育研究No.17(2017)

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