中部大学教育研究17
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用が有意になり、授業力の高い教員で特に受講の効果が顕著になるという仮説2が支持されるだろう。しかし本研究においては、授業力のような個人差変数による調整効果はほとんどの場合有意に至らなかった。以上のことから、元々の授業力に関わらず、FDプログラム(特にキャリアアッププログラムと授業サロン)の受講は、教員の授業開発および授業方法の向上に一定の効果を持つと考えられる。4.2プログラムと効果の対応関係(目的1-2)本研究では、受講したFDプログラムの内容と生じた効果の対応関係についても併せて検討することを目的1-2として挙げていた。そこで、プログラムの内容によって、効果が見られた従属変数が異なるかを検討し、受講の効果が特に出やすい条件を探った。その結果、キャリアアッププログラムの受講は、教員自身の授業運営に関わるスキルおよび態度である「授業運営」の評価向上に寄与していたが、授業サロンの受講は、学生の学習時間や学習態度の促進に関わる「学習促進」の評価向上に影響していた。Table2で示したように、中部大学で実施されているキャリアアッププログラムには各回に決まったテーマがあり、2014~2016年度までに行われた全32回の内訳は、教育システムが1回、授業デザインが7回、授業技術が11回、学生への対応が7回、授業運営・ICTが6回となっている。いずれも授業運営に関わるスキルおよび態度を直接的に扱う内容であり、プログラムで学んだことをそのまま授業内で活かすことができる。このため、授業評価の中でも授業運営に関わる側面で、受講効果が特に大きくなったと考えられる。一方、授業サロンでは、他の教員が実際に行っている授業を学期期間中に1コマ分参観し、気づいた点をA4用紙1枚にまとめて提出するという課題が受講者全員に課される。この授業参観は教室を俯瞰する後部座席から行わることが多いため、プログラムの受講者は、授業を行っている教員とともに、授業を聞いている学生の様子にも注目することになる。また、授業サロンでは、自分とは異なる専門分野の教員の授業を参観するため、より学生に近い立場から授業を眺める機会にもなる。このような学生の視点に立った授業参観は、学生の気持ちの理解につながり、受講者が学習者中心のアプローチに転換する契機となった可能性がある。その結果、自らの授業でも学生の自主性を高める働きかけが増え、授業評価の中でも学習促進評価が特に向上したものと考えられる。4.3個人差変数の調整効果(目的2)本研究では目的2として、各教員の授業力を個人差変数とすることで、FDプログラム受講の効果が特に強く見られる条件を検討した。しかし、個人差変数を含めた2次の交互作用効果が有意になることはほとんどなく、FDプログラムを受講すれば、元々の授業力に関わりなく、誰でも効果を得ることができると言える。しかし、FDカフェの受講状況で群分けを行ったときは2次の交互作用効果が見られ、授業力の高い教員がFDカフェを受講しなかった場合に限り、3年間で授業運営評価が有意に下がるという結果が示された。この結果は、FDプログラム受講の効果が、教員が元々備えている授業力によって調整されるという意味で仮説2に添うものだが、得られた調整効果のパターンは、予想されたものとは異なっていた。それでは、「授業力の高い教員が3年間FDカフェを受講しない場合、授業運営評価が下がる」という本研究の結果は、どのように解釈可能だろうか。まず、統計的アーティファクトである可能性が考えられる。事前測定を行った2013年度に高い授業力を持つと評価された教員の中には、たまたま優秀な学生が揃っていたなどの偶発的要因により、実力以上に高い評価を受けていた教員も含まれていたかもしれない。そしてこのような教員は、2013年度の授業運営評価でも同じ要因から高いスコアをとるが、事後測定を行った2016年度にはこのような偶発的な要因の影響は消えている。その結果、スコアも本来の状態に戻り、事後(2016年度)に測定した授業運営評価スコアが、事前(2013年度)測定時に比べて下がるという現象が生じ得る。しかし、本研究の場合、同じく授業力が高い教員であっても、受講群では評価スコアの低下が見られず、統制群でのみ低下が生じていた。よって本研究で見られた結果が統計的回帰によるアーティファクトである可能性は低いと考えられる。なお、本研究では、事前の授業力の主効果と、事前の授業力と時期の交互作用がいずれの場合も有意であることも付加的に示されていた。つまり、事前の授業力が高い教員が、授業力が低い教員より平均的に高い授業評価スコアを取ることは、測定時期を問わず一貫した傾向であるといえる。そのため、学生にとって魅力的な授業を行う能力を備えた教員は、そのような能力を持たない教員に比べ、安定して高い授業評価を学生から得る力を元から持っていることになる。しかし、そのような力を持っていても、FDカフェを3年間受講しなければ授業評価は有意に低下することを本研究の結果は示していた。よって授業力が元から高い教員であっても、日々の研鑽を怠れば、学生か―29―FDプログラムの受講が学生による授業評価に及ぼす影響

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