中部大学教育研究17
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ど、実質的かつ持続的な変容が受講者もしくは受講者の所属する組織で生じたかを測定するものになっている。それでは、大学・短大で実施されているFDの効果を検証する際には、どのレベルの評価を、どのような評価指標を用いて行うことが望ましいだろうか。国立教育政策研究所FDer研究会が2009年に発行した「大学・短大でFDに携わる人のためのFDマップと利用ガイドライン」では、個々の教員(ミクロ・レベル)、教務委員(ミドル・レベル)、管理者(マクロ・レベル)に分けて、FDの目的が整理されている。そして、ミクロ・レベルでは、「個々の教員による授業・教授法の開発」がFDの目的とされ、新任教員の場合は「授業を実施するための基本的なスキルを知り、これをもとに授業を実践することができる」などを含む「フェーズⅡ:基本(実践できる)」の達成が目標になっている。一方、中堅教員の場合は「授業を実施するための多様な方法を知り、その中から、担当する科目の目的・目標の達成に適した方法を選択・開発することができる」などを含む「フェーズⅢ:応用・発展(報告できる、開発できる)」の達成が目指されている。そして、各フェーズに含まれる目標の達成を評価するにあたっては、「プログラム参加者・利用者の満足度、目標の到達度」のみならず、「学生による授業評価における満足度、目標の達成度、授業の改善度」が評価指標として用いられるべきであるとの提言が見られる。つまり、個々の教員(ミクロ・レベル)におけるFDの目標は、授業・授業法を開発できるという行動レベルの変容が達成されることであり、これはカークパトリック・モデルに照らせばレベル3以上の評価を必要とする。そして、そのための評価指標としては、学生による授業評価が有力な候補となる。1.2国内におけるFDプログラムの効果検証国内の高等教育機関でFDに関する研修プログラムの効果検証を行う場合、カークパトリック・モデルのレベル1やレベル2の評価を実施することは往々にして見られる。たとえば、プログラム実施直後に受講者アンケートで研修内容に対する満足度や学んだ点に関する記述を求めるなどがそれである。しかし、学生による授業評価等を用いてレベル3やレベル4において研修プログラムの効果を検証することは容易ではない。その中で、曽我(2006)は、大同工業大学で公開研究授業実施者の授業改善状況を、研究授業の実施前後に行った学生による授業評価アンケートから明らかにした。それによると、研究授業担当者全体でプラス評価比率が42.2%から46.2%に上昇するとともに、事前のプラス評価の低い群の上昇率が高くなることが報告されている。これはレベル3以上の評価を機関全体で実施した貴重な研究だが、この分析には統制群が設定されていないため、授業担当者において見られた伸びが研究授業を担当していない教員の伸びと比して統計的に有意かどうかは検証されていない。このように統制群がないタイプの研究は、1群事前事後テストデザイン(one-grouppretest-posttestdesign)と呼ばれる。しかし、1群事前事後テストデザインでは、FDプログラムの受講以外のさまざまな外生要因が結果に影響している可能性を十分に排除できず、得られた効果がFDプログラムの効果であると厳密に特定するのが困難な場合がほとんどである。たとえば、FDプログラムを受講した教員のみを分析対象とした場合、実施前後で見られた評価の伸びは、事前の測定時から事後の測定時にかけて授業量が物理的に増えたことによる教員の自然な成熟が原因であり、プログラムを受講しなかった教員でも同様の伸びが見られた可能性が残る(成熟の要因)。同様に、統制群が存在しない場合、事前事後の評価を行う間にFDプログラムとは無関係の共通イベント(カリキュラム改定など)が生じ、それが教員に対する評価を全体的に向上させたという可能性も残る(履歴の要因)。また、学生による授業評価アンケートを用いたレベル3における効果検証は、1群事前事後テストデザインを用いていることに加え、機関全体ではなく研修を受けた一部の個人のみを対象にしたものが大半を占める。そのため、全学で実施されたプログラムの効果をより明確に検証するためには、研修を受けた教員と受けていない教員の両方のデータを含めて、機関レベルで統計的な検討を行うことが望ましい。しかしその場合、学内のFDプログラムの受講歴や学生による授業評価アンケート結果などの個人データが必要になり、学内でのデータの管理体制等から実施が困難であることが多い。なお、個々の大学を超え、四国地区大学教職員能力開発ネットワーク(SPOD)や全国私立大学FD連携フォーラム(JPFF)等の大規模なFDネットワークにおいてもレベル3以上のFDプログラムの効果検証は重要な課題となっている。しかし、受講者が所属する各大学の学生による授業評価アンケートのフォーマットが異なるため、いっそう統一的に統計的な処理を行うことが難しく、国内で相当する研究は見当たらない。そのためSPODでは学生による授業評価アンケートに代えて別の質問紙を用意し、新任教員用のFDプログラムの受講者各自の主観評定に基づき、プログラム受講後の授業改善効果を報告している。この報告は、大学全体の動向を把握する上で有益な資料を提供する―20―中部大学教育研究No.17(2017)

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