中部大学教育研究17
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1問題と目的「21世紀の大学像と今後の改革方策について」と題された大学審議会による答申(1998)で、ファカルティー・デベロップメント(FD)を実施することの重要性が指摘された。FDとは、「教員が授業内容・方法を改善し、向上させるための組織的な取り組みの総称」であり、具体例としては、「教員相互の授業参観の実施、授業方法についての研究会の開催、新任教員のための研修会の開催」などが該当する。この答申を受け、1999年には大学設置基準の中でFDの実施が努力義務とされ、2008年には大学院設置基準、2009年には大学設置基準にFD実施の義務化が明記された。そのため現在では、全国の大学・短大で、さまざまな形式のFDプログラムが行われている。中部大学でも、2008年度に『魅力ある授業づくり』をFD活動の重点目標に定め、従来に加える形で、多様なFDプログラムを展開している。このように教員の授業力向上を目指したFDへの取り組みが全国規模で本格化する中、自己点検・評価の観点から実施中のFDプログラムの効果を検証しようとする機運が各大学で高まってきた。1.1FDプログラムの効果検証のための枠組みFDのような研修プログラムの効果検証を行う枠組みとしては、Kirkpatrick(1959)の4段階モデル(Kirkpatrick'sFourLevelsofEvaluation:以下、カークパトリック・モデル)がよく知られている。この評価モデルは、対象となる研修プログラムをレベル1(Reaction:反応)、レベル2(Learning:学習)、レベル3(Transfer、後にBehavior:行動変容)、レベル4(Results:業績向上、組織変容)の4つのレベルで評価するものである。レベル1は研修直後の受講者の満足度を評価し、レベル2では研修に対する受講者の学習到達度を筆記試験やレポートなどで評価するのが一般的である。また、レベル3では研修後の受講者の行動変容を、研修後一定期間をおいて受講者自身へのインタビューや質問紙調査、他者評価などを用いて評価することが多い。さらにレベル4では研修後の受講者の成果や組織への貢献を、研修後一定期間をおいて売り上げや生産性など組織の業績の向上を示す数値で評価することが一般的である。このようにカークパトリック・モデルでは、評価のレベルが上がるほ―19―FDプログラムの受講が学生による授業評価に及ぼす影響-中部大学における3年間の累積効果の分析-高比良美詠子*1・沖裕貴*2・杉井俊夫*3・西川鉱治*4要旨FDの効果検証はFDの義務化以降、大学にとって喫緊かつ重大な課題である。カークパトリックの研修の効果検証モデルの第3レベル、第4レベルの検証には、学生による授業評価が有効であることは知られているが、FDプログラムの受講歴や授業評価の結果の使用が難しく、国内においては統制群を設定して機関レベルで評価研究を行った事例はほとんどない。本稿は、中部大学における2014年~2016年の3年間のFDプログラムの受講歴と公開された授業評価のデータを用い、FDプログラムの受講が授業評価にどのような影響を与えるかを分析したものである。その結果、3年間に1回以上FDプログラムに参加した受講群の教員は1回も参加しなった教員に比べ、授業評価の授業運営評価スコアの伸びが有意に高かった。特に「キャリアアッププログラム」と「授業サロン」の受講は、元々の教員の授業力の高低とは無関係に、教員の授業開発および授業方法の向上に効果があることが分かった。また「FDカフェ」の受講では、授業力が元から高い教員であっても、日々の研鑽を怠れば学生による授業評価が有意に低下する可能性があることが判明した。キーワードFDの効果検証、FDプログラム、学生による授業評価、カークパトリック・モデル*1立正大学心理学部対人・社会心理学科教授/中部大学大学教育研究センター客員教授*2立命館大学教育開発推進機構教授/中部大学大学教育研究センター客員教授*3工学部都市建設工学科教授/大学教育研究センター長*4事務局次長/大学教育研究センター部長

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