中部大学教育研究17
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適したものでなければならない。⑧TSFの研究に関する機関の期待を明確にする。TSFもインタビューに参加した者もともにTSFに対する研究への期待が不明瞭であると不安を表明している。機関の決定にはこの不明瞭な点をはっきりさせることが必要であり、いくつかの重要な問題に焦点を当てることが求められる。もし仮に研究が求められるのであれば、TSFはどの程度それに従事すべきか。もし研究に関連した業務負担の比率が低すぎる場合には、実際に研究は意味のある方法で達成され得るのか。もしTSFが研究に従事するならば、それは教育学的なものか、それとも専門性に基づいたものか。もしTSFが教育学的な研究に従事した場合、それは研究もしくは教育学的な学識と認められるのかなどである(⑥参照)。5終わりに高等教育を巡る情勢は、多様な入学者の増加と教員の負担増、公的研究費の相対的減少、研究の重視と教育効果の説明責任の拡大など、オンタリオ州やカナダ全土を含め、世界各国で共通である。また、それへの対応も多くの国で共通であり、オーストラリアをはじめとする一部の国々では大学教員への教育資格の導入を目指し、カナダを筆頭とする一部の国々ではTSFに優れた教育実践と教育関連研究を重点的に委託する方向が顕著である。しかし、教育開発(FD)を義務化したり、伝統的な教員として採用が進められるところでも研究と教育のバランスは個人や機関で決めたりするなど、ほとんどの国々で双方の指向と傾向が見られるのが実態であり、日本もその1つであろう。TSF制度を導入した国々では、彼らの昇進や雇用の条件となる優れた教育実践や教育的リーダーシップの重点的な開発が可能となり、その成果がTSFを通して全学に広まることを期待している。一方、制度としてのTSFや実質的な教育専念教員はほとんどの国々で新しい仕組みであり、それは教員団に分断をもたらし、伝統的な教育と研究の両立の理念を破壊する懸念がある。その導入や運用に際しては、学長や副学長、学部長や学科長をはじめとする大学・学部・学科の管理職の理解が最も重要で、特に教授・学習に関する学識(SoTL)が大学教員の重要な「研究」に属するものであることを全教員に知らしめる必要がある。オンタリオ調査の提言には触れられなかったが、大学院の授業では将来、大学の教員を目指す受講生に対して大学でのSoTLに関わる知識と技能、態度を涵養する授業を用意することも重要な課題となろう。さらにTSF制度を創設する、しないに関わらず、アメリカや日本に見られるように、実質的にTSFと同様、教育に専念している専任教員に対してSoTLを研究業績として認めることを、採用や昇進の際の規約に明文化することが極めて重要であろう。併せて、教授職への昇進やサバティカル、管理職への登用等、TSFや教育専念教員の待遇や地位に関して、他の伝統的な教員との差別をなくする施策が、一定、教員団の分断や教員文化の破壊を防ぐ有効な手立てになることが指摘された。TSF制度導入の効果に関しては、短期的な学生評価においては高い効果が見受けられるものの、研究と教育の連関に関する議論と同様、すべての教員が納得する学術的な結論を得るまでには長い期間が必要であろう。しかし、各国とも明確な制度化を進めるか否かは別にして、教員や大学のなかに教育重点や研究重点が生まれる傾向は防ぎがたく、教員個人や大学ごとに業務負担の選択や機能別分化が進む傾向は今後もますます拡大していくであろう。この動向は、究極のところ、そのデメリットをできうる限り少なくして、教育、研究をともに重視する、新たな大学教員像や大学像を模索することに他ならない。注1)カナダの高等教育では、各大学とその大学の教員団体との労働協約(collectiveagreement)によって、雇用された教員の給与や労働時間のみならず、大学の権利・義務、教員をはじめとする専門職の権利・義務が詳細に定められている(羽田・土持、2009年)。2)「教育専念」の教員に関する名称については国や地域においてかなり異なるが、カナダ以外では英語表記において基本的に"teaching-intensive"や"teaching-focused"、"teaching-centered"などが用いられ、"teaching-only"は主に授業のみを担当する非常勤教員を指すことが多い。3)オーストラリアについては本文中に詳述。ノルウェイには大学教員の教育資格に関する国家的な法律があり、長年機能している。デンマークでは2007年以降、すべての助教授が教師教育を受講することが義務化されているほか、フィンランドではポリテクニクスにおいて教育研究に従事することが義務化されている。InternationalConsortiumforEducationalDevelopment,"ThePreparationofUniversityTeachersInternationally-Draftforconsideration,Council2014,2014.4)国内においては2008年、大学設置基準の改正によって各大学に「授業の内容および方法の改善を図るための組織的な研修および研究」が義務化されたほか、愛媛大学ではテニュアになるための100時間研修が義務づけられるなど、テニュアになるた―13―カナダおよび先進諸国の教育専念教員の実態について

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