中部大学教育研究17
22/224

4日本へのサジェスチョン(オンタリオ調査の提言を踏まえて)最後にVajoczkiらのまとめた報告書から、TSF制度導入にかかる8つの提言部分を抜き出す。これらはオンタリオ州固有の状況を反映したものではあるが、TSFや類似の制度の導入を計画したり、実質的に導入を進めたりしている他の国々や日本にとっても貴重な提言となるであろう。TSFの利用を拡大する提言(Vajoczkietal.,2011,pp.52-54)①文脈を考える。文脈が重要である。もしアカデミーの傘の下に個々の機関に固有の文化と明確な文脈の広がりがあることを認めるならば、TSFのような新たな教員の役割を導入する際、個々の文脈を理解し、それを丁寧に扱うことの重要性を想像することができよう。この研究は、オンタリオ州でTSFを雇用するそれぞれの機関が、別々にその役割を導入し、発展させてきたことを明らかにした。どのようにその役割が機能しているかはその機関、そこの教員集団、学科やプログラムの固有のニーズや環境に依存しているのである。②小さく始め、次第に役割を拡大する。多くの機関と教員にとって、TSFの導入は学術や大学、教授(professors)に関する伝統的な考え方にパラダイム・シフトをもたらすことを意味する。パラダイム・シフトには時間と教育、そして強いリーダーシップが必要となる。初期における、適切な数のTSFの成功によって、そのシフトが軌道に乗り、その役割がうまく行くようになる。③機関の教育についての価値付けを考える。TSFの導入は、機関にとって教育と、教育と研究の関係をいかに価値付けするかを再検討する機会になる。その2つはどのように結びついているか?大学の教育の使命はどのように研究の使命を拡大することと関連しているのか?また、大学の研究の使命はどのように教育の使命を拡大することと関連しているのか?教育はどのように評価されるのか?教育は複数の次元で(複数の人々によって、適宜、複数の観点から複数の方法で)評価されるのか?教育はBoyer(1990)の言うように学術活動として見なされるのか?優れた教育は賞賛され、報償されるのか?機関の教育と研究の使命は同等なのか?④TSFの仕事と役割を評価する。(機関にとって)教育に価値を置くことは、TSFの仕事と役割の評価に役立つ。多くの外的な方策によってこの価値を広めることができる。一つの戦略は(TSFとそれ以外の教員の)言葉と利点、そして経験を同等に扱うこと―つまり、TSFの語る言葉とその利点、経験を、教育・研究双方を行う同僚や研究専念の同僚のそれと同等のものとして扱うことである。一致させるべき分野は、職位(助手、准教授、フルタイムの教授)、昇進の過程、テニュアを獲得する過程、サバティカルの機会、俸給、期待される業務負担、管理運営(例として、人事委員会:テニュアや昇進を決める委員会や新たな採用の委員会)への参加の機会、管理職(例として、副学長(chair)、学部長(dean))になる機会である。⑤(TSFの)役割について副学長と学科長を教育する。学科長はTSFの成功や失敗にきわめて重要な役割を果たす。オンタリオのすべての大学の学科長は自らの学科内で高度な自律性を有している。彼らはしばしば教育やサービスの責任を課したり、優れた研究を督励したり、毎年、教員を評価したり、「研究と教育の連関」の全体的な配分を設定したりする責任を担っている。これまでのところ、大学における自らのキャリアのなかでTSFに出会った学科長はほとんどいない。よって彼らがその職責に就いた際には、この種の職に関する限定的な専門経験しかないため、TSFについて十分な教育を受ける機会を与えられる必要がある。⑥全教員が教育学的な学識に参加することを支援、奨励する。教育学的な学識は多くの形態をとる。新しい教育学的研究を生み、エビデンス・インフォームド・アプローチ(例として、優れた実践に関する文献によって教育を広めること)を通して教育活動を強化し、自らの教育学的アプローチに関する専門開発(PD)に参加し、同僚と教授・学習について知的な議論に参加するなどである。先行研究によると、これらの活動に参加することは良い教育と学生の良い学びに役立つことが示されている。これらの活動を生起せしめるような政策を立案し、キャンパスのスペースや資源(たとえば、図書館の文献や教育開発のスタッフ)を提供することによって支援や奨励を行うことが重要である。⑦教育を広く、繰り返し評価し、継続的な改善に焦点を当てる。教授は、特に基準が確立された研究評価と比較して、評価するのが極めて困難なものである。教育(評価)には複数の観点があり、アウトプットの基準にはうまく適合しない。教育は、学生の学びに貢献する、教員が参加する活動として広く定義される必要がある。評価は複数の人(例として、学生や同僚、メンター)により、複数回(コースの最中、コースの終わり、テニュアや昇進への応募がある際には年度の振り返りなど)、複数の文脈で行われなければならない。評価は繰り返し行われ、教員の継続的な改善に焦点を当てるものに―12―中部大学教育研究No.17(2017)

元のページ  ../index.html#22

このブックを見る