中部大学教育研究17
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活を通して将来の研究パートナーを見つけることであった。私も30年後にUCDへ弟子を紹介できたらと思う。写真3Dandekar研究室のメンバー3研究(DandekarLaboratory)DandekarLaboratory(以下、研究室)には研究員、留学生、大学院生等が合わせて10名程所属していた。研究室に配属されてから1週間程度は安全講習や各種手続きに忙殺されたが、それ以降は研究以外の業務が入ることはほとんどなかった。配属直後は英語でのコミュニケーションに苦労した。当たり前だが、生活や業務の全てを英語でこなさなくてはならない。週に1回研究室のミーティングがあり、そこで各メンバーが研究の進捗状況についてプレゼンを行う。私にも月に1回は順番が回ってきた。プレゼンは周到に準備できても、その後のディスカッションでうまく対応できず歯がゆい思いをすることも多かった。しかし時間が経つと慣れるもので、英語が下手でも気後れせずに質問や回答をできる度胸だけは身に着けることができた。3.1研究環境所属研究室は園芸学の分野では世界的に有名なラボであったが、古い実験設備が多いことに驚いた。遺伝子工学実験に必須のサーマルサイクラーですら、1990年代に製造されたものが使用されていた。全体的に見ても機器のレベルでは日本の一般的な大学と同程度か劣るくらいである。また研究室間での実験設備の共同利用も一般的なようで、他の研究室との機器の貸し借りも頻繁に行われていた。実験室は広い部屋をいくつかの研究室で分けて使うようになっており、研究室間の交流の促進に寄与していると思われる。UCDで働く日本人研究者に話を聞いたが、こうした状況はアメリカでは普通だそうだ。古い機器でも使えるものは使い、他のラボとも機器を共有しコストを抑える。世界的なラボというのは潤沢な予算と先端機器を駆使してデータを出すものだと思っていたが、こうした状況を知り励みになった。写真4実験室の様子3.2ポスドク同士の競争研究を開始してまず感じたことは、日本にいた時ほど人から丁寧に物事を教えてもらえないということである。もちろん親切な人もいるし、私が学生でないことも関係していると思うが、あまり協力的でない人も見られた。Dandekar教授の話では、同じ研究室内でもポスドク同士は競争関係にあるため、必ずしも皆が友好的な関係ではないとのことだった。(ポスドクとは任期付きの研究員で、任期間に研究成果を出せるかが契約更新、ポストの獲得に大きく影響する。)実際、私が1年で日本に帰ることが知れ渡ると、競争相手ではないことが分かったためか、周りの対応が少し柔らかくなったことを覚えている。また数カ月して研究に慣れたころには、新しく研究室に加わったポスドクが皆私のところに質問に来るようになった。単純に話しかけやすかっただけかもしれないが、余計なしがらみがないことも影響していたかもしれない。3.3クルミカリフォルニアの代表的な農産物であるクルミは可食部に多くの健康増進作用が報告される加水分解性タンニンを含んでいる。しかしその生合成経路は未だ完全には解明されておらず、関連する酵素遺伝子の同定も進んでいない。研究室では主に、加水分解性タンニンの生合成に関わる遺伝子(UDP-dependentGlycosyltransferase:UGT)の単離とタンパク質の機能評価を目的とした研究を行った。具体的には網羅的発現解析(RNA-seq)によって得られたデータを利用した候補遺伝子の探索、候補遺伝子のクローニング、クルミの各組織における単離した遺伝子の発現解析、単離遺伝子を過剰発現させた形質転換体の作出などを実施した。アメリカには遺伝子組換え植物を開放系で栽培できる大学が多い。UCDの研究室も試験圃場を持っており、遺伝子を組み換えたクルミの大規模―196―中部大学教育研究No.17(2017)

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