中部大学教育研究17
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それを実現するために多種多様な活動が行われた。学生の活動は招聘するOB・OGへの交渉、連絡、日程の決定、ポスターとパンフレットの作成、当日運営、終了後のまとめとして壁新聞を発行することなど全般であり、これらの仕事を円滑に進めるため以下のような役割を設定した。①全体統括(ディレクター)…全体の仕事がうまく進んでいるかをチェックし、必要に応じて指示。コンシェルジュとの連絡係を務める。②AD(アシスタントディレクター)…トークライブ中、マイクをまわしたり、事前のミネラルウォーター準備、懇親会の予約など。その他、ディレクターから指示を受けて必要な仕事を行う。③ゲスト対応…OB・OGとの連絡係。メールでやりとりし、日程の決定、経歴を聞いてプロフィールをデザイナーやライターに伝える、当日来校したゲストの案内など。④ポスターデザイナー…ポスターをデザインし、コモンズコンシェルジュから了承が得られたら、ポスターの印刷・掲示と立て看板の作成・設置を行う。掲示・設置作業はデザイナーが主導し、他のメンバーを集めて全員で取り組む。⑤ライター…ゲストのプロフィールなどを聞き、それをもとにパンフレット(当日資料)の作成を行う。コモンズコンシェルジュから了承が得られたら、印刷・製本などを行う。⑥MC1、2…当日の司会進行、OB・OGにいろいろな質問をして話を引き出す。当日までに進行表と質問内容をつくっておく。⑦カメラマン・機械操作(当日)…当日のビデオ撮影、PC設置、音響調整を行う(事前準備含め)。トークライブ終了後、撮影した映像を編集して広報用の動画をつくる。⑧壁新聞の記者(ジャーナリスト)…トークライブや懇親会の写真撮影、来場者へのインタビューなどを行い、自分で見聞きしたことをリポートした壁新聞を作製する。当日の様子だけでなく、準備過程のサポーターたちの奮闘ぶりから取材し、記録する。なお①から⑧は2016年度の役割一覧であるが、後述する点以外は2015年度も同様である。以上の様に、それぞれの役割名称にはイベント運営業界の職名を積極的に採用し、トークライブ・プロジェクトを仕事として推進するという意識を持てるように配慮した。学生自身そうしたポジション名が与えられることによって興味と関心を持ち、自分の役割を楽しむことができたようである。ただしここで述べておくべきは学生の責任感についてであろう。一年目は、学生の要望と自由な分担を尊重し、役割ごとに複数人が担当できることを容認した(なぜなら学生の「主体的」な活動を軸としているからである)。つまり、グループで一つの役割をこなすことを可能としたのである。この場合、何名かの学生は複数の役割を掛け持ちすることになった。次に、学生が多様な経験を積むことができるよう、トークライブごとに別の役割に変更することを可能にした。これによって学生が異なる種類の仕事を体験し、時には苦手だと思っていた事にもチャレンジすることを期待して採用した方針であった。しかしながら私たちコモンズコンシェルジュの見るところ、こうした体制には問題があった。第一は、複数人で一つの役割を担当したことにより、責任体系があいまいになり、お互いが他人任せにするようになってしまったことである。準備も滞る場面があり、トークライブ間際になってのポスター掲示となることもあった。次に、各回で役割を変更可能としたことにより、反省や気づきを次の回に活かすことができなかった。次の担当者に引き継ぎはしていたものの、やはりすべてを伝達するのは不可能であり、本人は予想していなかった部分でつまずくこともある。次の回にも同じ役職を担当するのであれば改善できるが、毎回担当学生が変わったために、経験が積みあがらず、同じ失敗をしている例も見受けられた。そのため、2016年度は各役割必ず一人で担当すること、そして役割は全ての回において変更はしないことを条件とした。他の仕事もやってみたい場合に手伝わせてもらうのは可能だが、その場合でも責任者はもともとの担当者にあることを明確にした。こうした変更を行った結果、学生は自分一人しか担当者がいないため強い責任感を持って仕事に臨むことができ、健全なチームワークを実現した。また毎回の反省を次の回に活かすことができるため、回を重ねるごとによりよいトークライブの運営を実現することができたのである。全体としての成果は次項に述べるが、いずれにせよ適切な制度設計こそが学生のアクティブ・ラーニングにおける教員の役割であることが明確に表れた事例だと言える。なお、2016年度は前年度よりプロジェクト参加学生が少なかったものの、その分「少数精鋭」で高いパフォーマンスを挙げることができたのも重要な点である。頼れる者が自分しかいないときにこそ、その人の能力を外に引き出す(educate)ことができるのであろう。―190―中部大学教育研究No.17(2017)

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