中部大学教育研究17
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1はじめに全国には、スポーツ医学を中核とするスポーツ医学系の学科が複数ある。スポーツ医学は総合医学であり、医学領域における種々の学問により成立する1)(表1)。身体運動により生体に生ずる変化を解明する基礎的領域と、その知見に基づいて、心身の健康や体力・競技能力の向上、疾病や傷害の予防・治療・リハビリテーションに活用する実地的領域に大別される2)(表2)。スポーツ医学は、スポーツ活動に関与する人間の医学的諸問題、例えば、スポーツ障害への対応、健康の維持・増進等、競技力向上に寄与する学問1)、究極的に健康を追及する学問2)である。スポーツ指導者には必須の学問である。全国のスポーツ医学系の学科の中には、スポーツ指導者の養成のみならず、救急救命士の養成コースが含まれる学科が存在する3)。著者ら3)は、スポーツ指導者と救急救命士は「医学的知識」「体力」「コミュニケーション能力」「倫理観」「協調性」の5つの素養が共通して求められることを指摘している。医学的知識について言えば、表1に示すように、スポーツ医学が対象とする諸学問と救急救命士法に基づく厚生労働大臣の指定する医学系学問とでは多くの部分が共通している。このような共通点を踏まえて、スポーツ指導者と救急救命士に通じる工夫された教育を行うことができれば、視野の広い実行力のある人材を養成することが可能になると尾方3)は提言している。この提言を基に、本論では、スポーツ指導者に必須のスポーツ医学が救急救命士の養成上で果たす意義を議論する。なお、本論では、消防官である「救急隊員」を「救急救命士」と同義に扱うこととする。この理由は、現在の日本では、救急救命士としての仕事は、消防官としての救急隊員にほぼ限定されているためである。2スポーツ救急医学平成23年の社会生活基礎調査によると、10歳以上人口の63%が1年間に何らかのスポーツ・運動を実施している。スポーツは“許された危険”の行為であり4)、外傷・疾病などが生じる危険性が高い行為である。スポーツに関連した外傷・疾病には、「突然死」「心臓震盪」「熱中症」「低体温・凍傷」「頭部外傷」「脊椎・脊髄外傷」「顔面外傷」「胸部・腹部外傷」「骨盤・四肢外傷」「自然毒(ハチ、毒ヘビなど)」「減圧障害(潜水病)」「高山病」「溺水」「ぜんそく・アレルギー」「インフルエンザ」等がある5)。また、このような外傷・疾病対策として、医学的知識はもとより、「創傷処置」「心肺蘇生法」「除細動」の知識・技術が求められる5)。これらの内容は、スポーツ医学で取り扱う範疇であるが、特に急性期の外傷・疾病を扱うスポーツ医学は「スポーツ救急医学」と呼ばれる5)。スポーツ救急医学で扱う内容は、救急救命士が扱う内容そのものである。スポーツ救急医学は、今後の日本社会における救急救命士の活動を支える重要な学問になろう。これは、2015年にスポーツ庁が発足し、スポーツを通じた地域振興と国際交流や、2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けた選手強化が推進されていることが―177―《提言》救急救命士におけるスポーツ医学の意義飯尾洋子*1・尾方寿好*2・馬場礼三*3・横江清司*3*1生命健康科学部スポーツ保健医療学科講師*2生命健康科学部スポーツ保健医療学科准教授*3生命健康科学部スポーツ保健医療学科教授表1スポーツ医学を構成する学問領域と救急救命士が必要とする学問領域の比較1)343

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