中部大学教育研究17
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4.3.1人間関係形成主に人間関係に着目した研究は8件で、学生の接遇について1件(三味ら,2012)、教員の実習指導についての振り返り1件(徳永ら,2009)、学生の自己評価について1件(蓑田ら,2009)、学生の学びについて5件(河相ら,2012;佐藤ら,2006;小笠原ら,2009;黒髪ら,2005;大隈ら,2003)であった。小笠原ら(2009)は、基礎看護学実習Ⅰにおける学生の人間関係形成に関する学びの中で、学生の課題レポートの内容から人間関係形成に関する気づきや行動の変化に関する記述を分析した結果、「学生から受け持ち患者へのアプローチ」「良好な人間関係形成のための必要条件」「人間関係形成とコミュニケーションの関係」「良好な人間関係形成のために必要な知識・技術」「人間関係形成過程の発展」「人間関係形成の大切さ・難しさ」「信頼関係を築くことで適切な看護が可能」の7つのカテゴリーを抽出している。特に「人間関係形成とコミュニケーションの関係」についての学びが最も多くみられ、学生は受け持ち患者との人間関係形成に“コミュニケーション”や“看護実践”“学生自らのアプローチ”が影響していること、人間関係が時間とともに変化・発展していくことを学んでいる事が報告されている。実習目標と学びが非常に関連しており、学生が実習の目標達成に向けて取り組み、また担当教員、実習指導者も適切な指導が出来た結果であると述べている。三味ら(2012)は、学生は「服装や髪型に清潔感を意識し学生らしく整えた身だしなみ」「コミュニケーションを積極的に行う気持ちを持ち続け築けた患者との関係性」等の6つのカテゴリーを初回臨地実習の接遇やマナーで良くできたと感じ、「学生としての基本的なマナーの再認識」「実習で学ぶ学生として大切と感じた積極的な姿」等の6つのカテゴリーを次回臨地実習へ向けた自己課題としていた。接遇・マナーを実践することは、患者に安心感を与え、患者との信頼関係が結ばれる。学生が臨地実習で接遇・マナーを実践し、人間関係を豊かにできる人材となるよう接遇における教育開発を実践していく必要性があると述べていた。佐藤ら(2006)は基礎看護学実習で学生は、患者との人間関係を築けたと感じている。人間関係を築けたと感じていた理由は、「話ができた」「患者から良い反応が得られた」「患者の状態や性格が良かった」「自分なりに努力した」「患者の思いが聞けた」「患者の気持ちを考えた」であった。とれなかったと感じた理由は「患者の状態や反応が良くなかった」「話ができなかった」であった。学生は、患者と関わったときの反応や患者の状態により人間関係がとれたかどうかを判断していたとし、教員は患者のその時々の反応に左右されるのではなく、自分はどのような状態であったかなど広い視野から捉え、深く考えられるように促す必要があると述べている。4.3.2コミュニケーション主にコミュニケーションについて着目した研究は6件で、基礎看護学実習に向けた事前の学内演習の効果について1件(齋藤ら,2016)、コミュニケーションを苦手とする学生の対人関係の特性について1件(酒井,2010)、基礎看護学実習における患者と学生とのコミュニケーションについて現状の把握4件(滝下ら,2008;岩井ら,2006;二重作,2005;岩脇ら,2001)であった。滝下ら(2008)は、効果的な基礎看護学実習の展開の検討するために、2年間に渡り基礎看護学実習Ⅱを履修した145名を対象に、実習終了後に実習目標の達成度、実習中の悩み体験や困難についてアンケート調査を実施した。その結果、実習指導においては、実習中の悩みや困難となりやすい患者-学生関係に着目し、患者との良好な関係が成立するようコミュニケーションを中心とした支援が必要であると述べている。岩井ら(2006)は、患者-看護学生間に良好な人間関係を築いていくために、共感的態度をもった看護者としてのかかわりが重要であると考え、実習の進行に伴い患者-看護学生間のコミュニケーションがより緊密になる状況が示されており、因子分析により相互関連の深さ因子と相互関連の距離因子の2因子が見出されている。実習の最初の頃にはまだ患者-看護学生間に距離があるが、実習の進行に伴って次第に相互関係が深まり、それによって更に距離が縮まるという状況を客観的に示している。今後さらに期待されることとしては、患者-看護学生間の関係構築を評価するための尺度を作成し、臨地実習における患者-看護学生間の関係構築をサポートする取り組みが必要であると述べている。5考察5.1患者-学生関係に関する文献の推移発表年別文献数は、2008年1月の保健師助産師看護師学校養成所指定規則(以下指定規則)の改正以降は81件で、2008年の15件が最も多かった。これは前回の指定規則改正から10年以上が経過し、看護を取り巻く環境の変化に伴い、看護実践能力を強化することが挙げられたためと考えられる。この背景には、特に新人看護師の看護実践能力の低下に対する問題提起が含まれており、安全で安心できる医療体制構築に向けた看護基礎教育の充実が求められていた。そのため全ての―172―中部大学教育研究No.17(2017)

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