中部大学教育研究17
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1はじめに看護において、良好な人間関係が基盤となることが日常的に言われているが、良好な人間関係とは何か?と聞かれると漠然としており明確に定義している先行研究は見当たらない。しかし、看護において患者―看護師間に良好な人間関係を築くことが良質な看護を提供できる条件であると述べられている(岩井ら,2006)。つまり誰もが必要性は理解しているが、その内容は明確にはされていないのである。厚生労働省(2014)「新人看護職員研修ガイドライン改訂版」の中で、新人看護師が1年以内に習得を目指す項目として、患者の理解と患者・家族との良好な人間関係の確立があげられている。このことからも、看護師にとって患者との良好な人間関係は質の高い看護の提供や、医療の安全性を保つうえでも不可欠であると考える。しかし、近年は携帯電話や電子メールなどによるコミュニケーション手段が急速に拡大しており、対人関係のとり方も変化してきている。将来看護師を目指す看護学生においても生活経験が乏しく、多様な背景を持つ対象を理解することや、人間関係を形成することに困難を伴う場合も多い。現在、文部科学省において進められている看護学教育モデル・コア・カリキュラム(案)には、高齢化に伴う施設中心から地域中心医療へのシフトという社会環境の変化への対応と、看護実践能力の修得を目的として、学士課程で目指す看護系人材として求められる基本的な資質と能力が明示されており、平成31年4月からこれらを踏まえたカリキュラムを開始する方向で動いている。この資質・能力は9つ明示され、その中にコミュニケーション能力がある。看護において、コミュニケーションが人々との相互の関係に影響することを理解し、より良い支援に向けた自らのコミュニケーションを学ぶことをねらいとしている。また看護実践の基本となる専門基礎知識では、看護の基礎となる対人関係形成として、言語表現・非言語表現を用いた対象との相互作用を通して関係性を形成できることを学修目標として挙げている。看護における対人関係は援助的人間関係を基盤としており、看護者と対象者の相互作用を通して確立されるが、日本看護系大学協議会(2012)「大学卒業時到達度の評価手法開発のための調査研究報告書」において、卒業時到達目標の達成に対する教員の期待と学生の到達状況の認識についての報告では、「援助的関係形成の過程を理解し、援助的関係を形成できる」という項目については教員の期待も低く、学生の到達状況でも認識が低いことが報告されている。本研究において、看護基礎教育において患者-学生―169―看護基礎教育における「患者-学生関係」に関する研究の文献レビュー伊神美早*1・篠崎惠美子*2要旨本研究の目的は、看護基礎教育において患者-学生関係の形成について、どのような研究がなされているか現状を把握し、その教育方法について文献的に考察することである。医学中央雑誌Web版ver.5を用いて、キーワード「看護基礎教育」「患者-看護学生関係」、原著論文のみで検索を行い124件が抽出された。研究目的、方法、結果を抄読し、テーマと合致した14件の文献を分析対象とした。結果、良好な人間関係を築くことが良質な看護を提供できる必要条件であると考えられており、看護学生は看護基礎教育で早期に体験する基礎看護学実習において、初めて患者との良好な人間関係が大切であることを学んでいた。また患者-学生関係について、その必要性は誰もが理解しているが、現段階では具体的な教育方法の確立はされていない状態であることが分かった。今後は教育内容等について整理し、段階的に習得できるように具体的な教育方法を検討することが必要である。キーワード看護基礎教育、患者-学生関係*1看護実習センター助手*2人間環境大学大学院看護学研究科教授

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