中部大学教育研究17
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アの改善に取り入れているかの設問と解釈したのではないかと考える。今回対象とした臨床経験10年以上で35~49歳のジェネラリスト・ナースの多くは、看護基礎教育において事例検討方法の習得にとどまり、研究方法を正確に学んでいない年代である。そのため研究について苦手意識があり、評定が低くなった可能性がある。そしてICNフレームワーク全体を見ると「~を理解していることを患者に示す」という項目が多い。対象者の3割が実行していないと回答した3項目にも、この表現が含まれていた。欧米では、インフォームドコンセントがすべてのケアの前提として行われ、かつ自分に何ができるかということを患者/クライアントに明示することが通常化されている。対して、わが国では看護職者が「理解していることを患者/クライアントに示す」ことはほとんどしていない。そのため対象者はこれらの項目に対し「実行していない」を選択した可能性がある。研究対象者全員が調査紙への回答後に「言葉が慣れていない」「難しかった」と感想を述べていることからも、特に「実行していない」が多かった項目については、言葉の意味が理解できずに回答した可能性もある。その一方で「(ジェネラリスト・ナースは)こういうことを実行していないといけないんだと知った」という感想からは、ICNフレームワークを活用した調査紙へ回答することで自分達に求められている能力を知るとともに、ジェネラリスト・ナースのエキスパートに必要な知識を知る機会となることが推察された。研究対象者は98項目の設問に対し約12分の回答時間を要しており、調査紙への回答としては時間を要するものであったと考える。そのため使用する言葉を日本のジェネラリスト・ナースに合わせて平易にしたり、日本の制度に合わせた表現に改変したりすることで回答へのストレスを軽減し、調査紙の信頼性が確保できる工夫の必要性が示唆された。以上より、ICNフレームワークは項目の表現を平易にし、日本の文化や制度に合わせて検討していくことにより、わが国のジェネラリスト・ナースの能力基準として活用できるのではないかと考える。また、対象者の3割が「実行していない」と回答した6項目は、ジェネラリスト・ナースに求められる高い能力である。国際的には戦争やテロリズムが頻発しており、わが国では自然災害に常時見舞われている。加えて、超高齢・多死社会を目前に控え、ジェネラリスト・ナースには在宅療養を含めたあらゆる場・対象に看護を提供することが期待されている(日本看護協会,2012)。そのため、看護管理者や専門看護師のみが政策策定や研究知見の活用にかかわっていくのではなく、ジェネラリスト・ナース自身が取り組むこととしてとらえていく必要がある。本研究では、それらの項目に対する継続教育の強化が示唆された。8.2看護実践への活用本研究おいて、ジェネラリスト・ナースのエキスパートが調査紙のほとんどの項目を認識または実行していると回答したことにより、ICNフレームワークがわが国のジェネラリスト・ナースの能力基準として活用できる可能性があることがわかった。また「実行していない」と解答した項目については、看護系大学等における基礎教育課程ならびにジェネラリスト・ナースの継続教育の内容の手がかりを得ることができたのではないかと考える。8.3研究の限界と課題研究対象者は東海地区の5病院からのサンプル抽出であったため、地域性、病院の規模や特性が研究結果に反映していた可能性がある。また、研究対象者が所属先からスタッフのロールモデルとなっているとして推薦された看護師であったために、対象者も限定されていた。今後は地域・施設・対象者数を広げた研究を検討するとともに、調査紙の内容や回答形式等を整備して、全国的に調査をしていく必要がある。加えてキャリア支援においては、看護師のキャリア選択肢にジェネラリストのエキスパートがあがるよう、その幅広い能力をICNフレームワークで示していく必要があると考える。9結論東海地区にある5つの地域中核病院に勤務し、上司から推薦を受けた臨床経験10年以上で35~49歳のジェネラリスト・ナース20名を対象にICNフレームワークを活用した調査紙を実施したところ、98項目中92項目において「いつも実行している」または「時々実行している」であった。約3割の対象者が「やっていない(実行していない)」と回答した内容は「戦争・紛争・自然災害時におけるケアの優先度の理解」「災害時対策の理解」「保健医療技術開発の理解」「政策策定・プログラム計画の参加推進」「専門看護実践発展への貢献」「看護発展のための調査の活用」の6項目であった。以上より、ICNフレームワークはわが国のジェネラリスト・ナースの能力評価に活用できる可能性が示唆された。―166―中部大学教育研究No.17(2017)

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