中部大学教育研究17
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1研究背景特定の専門あるいは分野にかかわらず、どのような対象者に対しても、その場に応じた知識・技術・能力を発揮できる看護師をジェネラリスト・ナースと呼ぶ(日本看護協会,2007)。2025年の団塊世代の後期高齢化を目前に控え、わが国では看護の需要と役割が増大する課題を抱えており、ベッドサイドで直接、患者に看護を提供するジェネラリスト・ナースの能力を高めていくことが不可欠である。国際看護師協会(InternationalCouncilofNurses:以下ICNとする)は「看護基礎教育を修了し実践を行う看護師」をジェネラリスト・ナースと定義している(2003)。すなわち看護系大学等の看護師養成機関を卒業し、医療福祉施設で働き始めた新人看護師はすべてジェネラリスト・ナースということになる。ジェネラリスト・ナースは就職後の様々な臨床経験や継続教育によりキャリア発達をしていく。そのキャリアの選択肢としては、特定の分野・領域において専門性の高い看護実践を提供する専門看護師、病棟師長などの看護管理者、そしてジェネラリスト・ナースのエキスパートとなることに大別され、その選択には臨床経験10年を必要とする(津本,2008;本田,2012)との報告がある。看護系大学の増加に伴い専門看護師養成機関の大学院も増え、専門看護師の数は増加してきている。専門看護師は、勤務する病院のホームページで紹介されるなど病院の顔として存在が広く認知されてきている。一方、ジェネラリスト・ナースのエキスパートがどのような年齢や診療科の患者にでも質の高い看護を提供する臨床実践家であることはあまり認識されていない。また、当事者でさえも自分をジェネラリスト・ナースと認識している者は少なく(林,2017)、ジェネラリスト・ナースのエキスパートの指標は見当たらない。ICNは各国のジェネラリスト・ナースの能力の統一を図る目的で「TheICNFrameworkofCompetenciesfortheGeneralistNurse」(ジェネラリスト・ナースの国際能力基準フレームワーク:日本看護協会邦訳、以下ICNフレームワークとする,2003)を示している。ICNフレームワークは、「専門的、倫理的および法的な実践」「ケア提供とマネジメント」「専門性の開発」の3つの概念と98の下位項目から構成されており、ジェネラリスト・ナースに必要な能力の全体像が示されて―161―わが国におけるICNジェネラリスト・ナースの国際能力基準フレームワークの活用木村裕美子*1・早瀬良*2・三上れつ*3要旨本研究では、わが国における国際看護師協会ジェネラリスト・ナースの国際能力基準フレームワーク(以下ICNフレームワーク)の活用を検討した。方法は5病院の、スタッフのロールモデルとして推薦されたジェネラリスト・ナース20名にICNフレームワークを活用した調査(98項目3件法)を実施し、項目ごとの対象者の実施状況を得た。結果、対象者の多くが92項目で「いつも/時々実行している」と回答した。これより推薦を受けたジェネラリスト・ナースのエキスパートの行動は、ICNフレームワークの能力基準と合致していると捉えることでき、「いつも実行している」に近づくほどジェネラリスト・ナースのエキスパートに近い能力を持つと考えられた。3割の対象者が「実行していない」と回答した6項目は「戦争・自然災害時におけるケアの優先度の理解」「災害時対策の理解」「保健医療技術開発の理解」「政策策定・プログラム計画の参加推進」「専門看護実践発展への貢献」「看護発展のための調査の活用」であった。これらの項目に対する継続教育の強化が示唆された。キーワードジェネラリスト・ナース、エキスパート、キャリア、ICNジェネラリスト・ナースの国際能力基準フレームワーク*1看護実習センター助手*2生命健康科学部保健看護学科講師*3生命健康科学部保健看護学科教授

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