中部大学教育研究17
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Standards)が存在し、大学で教えることについて容赦のない厳しい国家規格が大学院の資格(graduatecertificates)に適用されている(ICED,2014)。特にこの基準では、大学教員が、少なくとも教えるコースよりも1ランク上の資格を持つか、それと同等の関連する学術的、専門的、あるいは実践ベースでの専門技術・知識を持つことが必須とされている。同様に研究指導についても同等の資格と経験が求められている。コースの重要な構成要素について主導的あるいは監督的な役割を果たす教員は、自らの教育に関する継続的な学識の具備要件を含めて、規格に述べられた特定の能力と資格を満たさなければならない。これらの要件には自らが教えている分野の(継続的な学術的活動から得られる)教育開発の現状に関する知識、教えている学生の要望に応える教授・学習・評価の技術と少なくとも1つのレベルの資格を含んでいる(TEQSA,2015,p.17)。オーストラリア資格枠組協議会によると、これらの資格は10のレベルごとにCertificateⅠ~CertificateⅣ、Diploma、AdvancedDiploma、AssociateDegree、BachelorDegree、BachelorHonoursDegree、GraduateCertificate、GraduateDiploma、MastersDegree、DoctoralDegreeの計13種類に分けられており、それぞれの取得に必要な規準ならびに資格発行に伴う要件や義務が詳細に公示されている(AQFcouncil,2013)。このようにオーストラリアでは全大学教員に高等教育機関で学生を指導するための資格取得を義務づける一方、他の先進諸国と同様、(終身雇用の)TSFのみならず、教育に専念する教員(さらに研究に専念する教員)が増加する傾向にもある。Cowley(2008,p.279)によると、政府が公表した資料でフルタイムの教育専念教員と研究専念教員の数が従来の教育・研究双方を担うフルタイム教員('96年、'05年とも教員全体の約25%)よりも増加傾向にあることが示されているという。その中でも教育専念教員(2005で約8%)に関して特に興味を引く点は、フルタイム契約自体は微増しているものの、1996年から2005年の間に10%以上も非常勤が増加し、同率でフルタイム契約が減少していることである。一方、研究専念教員は2005年には全フルタイム教員の12.1%を占めるが、これは1996年以降2%以上増加し、それは2,000名の研究専念の機能を担う特別な教員が増加したことを意味する。また、彼らは教育専念教員とは異なり、その76.5%を占める多数派がフルタイムで雇用され、その傾向は2000年以降も堅調である。しかし、当然のことながら、同じく非常勤や時間給の教育専念教員が増加していたアメリカやイギリス16)と同様、オーストラリアの教員労働組合はこれらの教育専念教員の増加に対して警告を表明した。これへの解決策として検討され、実施され始めたのが、2.2節でも述べたがフルタイムの終身雇用の保障されたTSF制度で、たとえば、オーストラリアのクイーンズランド大学(UniversityofQueensland)では、2007年度から教育専念教員に関して(例として給料、テニュア、投票権などを)伝統的な教員と完全に平等な制度に移行しつつある。そこでは教育専念教員は教育と教育関連の学識の特別な義務を持った主要な大学教員として認知されることとなった。クイーンズランド大学では当時48名の教育専念教員を任命し、彼らの教育と教育に関わる学識(教育研究)を併せたエフォートは全体の70%だということである(Cowley,2008,p.283)。これはカナダに見られるTSFと全く同じ制度であると言えよう。④アメリカの個別の事例アメリカでも1980年代後半から2000年代にかけて、テニュアやテニュア・トラックの教員から有期契約教員や非常勤教員への転換が急速に進んだ。実際、アメリカでは1989年から1995年まで、大学教員は全体で13%増加したが、1995年に381,000人いる非常勤教員は1989年から27%増加したのに対し、(テニュア・トラックをはじめとした)フルタイム教員はわずか5%の増加にとどまった(Rajagopal,2004,p.53)。また、アメリカ教育統計(2011)によると、テニュアを有する教員の比率は依然、減少し続けている。テニュア制度を持つ機関の大学教員のうち、1993-1994年では56%のフルタイムの教育スタッフ(フルタイムの教員とフルタイム相当の教員)がテニュアを持っていたのに対し、2009-2010年では約49%に減少している。また、テニュア制度を持つ機関の比率も1993-1994年の63%から2009-2010年の48%に減った。この変化が起こった原因の一部は、営利を目的とした機関の数が増加したことである。2009-2010年時点で営利目的の機関のテニュア制度の導入率は1.5%でしかない(Thomas&Sally,2012,p.281)。さらに、2001年当時、アメリカでは46%の大学でフルタイムの契約教員が教育負担に関してテニュア・トラックの教員と同等の義務と責任を担っていたが、44%の大学では非テニュア・トラックの教員は教育専念(teaching-only)の地位で雇用され、それゆえにテニュア・トラックの教員よりも重い負担を担っていたと報告されている。特に研究大学ではそれが顕著となっている(Rajagopal,2004,pp.62-63)。Bellahによると、臨時もしくは有期雇用の教員は大学教員職の「下位」と見なされていると述べている。―6―中部大学教育研究No.17(2017)

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