中部大学教育研究17
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1はじめに超高齢社会を迎えたわが国において、医療費の削減に伴う療養型病床の削減が進む中、訪問看護のニーズは年々増えている。また訪問看護のニーズは多様化しており、高齢者のみならず、難病、がん、小児など医療依存度の高い利用者も増加し訪問看護の担う役割は大きい。団塊の世代が後期高齢者になる2025年には、医療・介護の分野において看護師は200万人が必要とされるが、現在160万人にとどまり(厚生労働省2014年調査)、今後増加する訪問看護へのニーズを満たす訪問看護師の確保は喫緊の課題である。しかし、全国的に看護師が不足し、訪問看護ステーションに従事する看護師が全就労看護師の2%と非常に少ない現状(平成26年12月衛生行政報告)では、資格があるにもかかわらず看護師として働いていない潜在看護師の活用など多角的な検討が必要である。潜在看護師は平成24年厚生労働省の推計では約71万人といわれ、訪問看護支援協会の調査では、潜在看護師の復職の際の不安には、子育てしながら働けるのか、経験豊富な看護師でなければ訪問看護はできないのではないか、訪問看護がイメージできない(在宅看護論が看護基礎教育のカリキュラムに新設されたのは平成9年であり、潜在看護師の多くは在宅看護論を履修していない)等が復職の障壁となっていることが報告されている。潜在看護師が訪問看護ステーションに就職する際の勤務条件面でのメリットは、一般の病院勤務に比べ給料水準が比較的高く土日の休みが多いことや、パートタイムのようなフレキシブルな働き方が出来ることが挙げられ、時間制約のある潜在看護師の職場として条件が合うと考える。一方、デメリットとしては、訪問看護ステーションは小規模(1事業所当たり看護職員数約4.6人;日本看護協会2014年調査)な事業所が多いため、潜在看護師の不安に応える十分な現任教育ができない現状がある。以上の社会的背景から、本研究の目的は、潜在看護師を対象とした訪問看護師人材養成プログラムを検討することである。これは潜在看護師の再就職と訪問看護師人材確保の促進に繋がり、大学の地域貢献の一つとしても有意義であると考える。尚、本プログラムは中部大学特別研究費(平成27年~28年度)の助成を受けて実施した。2方法本プログラムの趣旨や参加条件に同意して応募してきた潜在看護師に対し、平成27年度10名、平成28年度12名を対象に年4回のプログラム(在宅ケアコンセプト概論、医療処置概論、在宅リハビリテーション、訪問看護師との懇談会等)を実施し、その前後で質問紙調査(知識・技術の自己評価、受講満足度、一般性自己効力感尺度(Schwarzer;1992)1)、簡便看護師職業キャリア成熟測定尺度(狩野;2011)2))と最終日にはフォーカスグループインタビューを行った。実施にあたっては中部大学倫理審査委員会の承認を得て行った(承認番号;270064)。参加条件として、4回の全プログラムに参加可能な訪問看護に興味のある潜在看護師とした。尚、研究手順を図1に、平成28年度の訪問看護師人材養成プログラムを表1に示す。プログラムの作成にあたっては、先行研究3)4)5)6)と訪問看護の実務者の意見を参考にした。実施にあたっては、近隣4箇所の訪問看護ステーションの看護師、理学療法士、人工呼吸器レンタル業者の協力を得た。3結果平成27年度に10名の潜在看護師を対象にした本プログラムを実施した結果、受講者のニーズ調査からは概ね好評ではあったものの、人工呼吸器管理や呼吸理学療法に関するニーズがあった。また参加条件が全プログラムに参加できることではあったが、子どもの運動会で欠席した受講者より、欠席時のフォローについての要望があった。そこで、平成28年のプログラムでは、在宅人工呼吸療法と呼吸理学療法を追加し、やむを得ない欠席者に備えて本学のメディア教育センターの協力を得て講義内容をDVDにして欠席者に貸し出すことにした。本稿では表1に示した平成28年の修正プログラムを実施した状況を報告する。―139―潜在看護師を対象とした訪問看護師人材養成プログラムの検討堀井直子*1・小塩泰代*2・大谷かがり*3・寺本由美子*4*1生命健康科学部保健看護学科教授*2生命健康科学部保健看護学科准教授*3看護実習センター助教*4看護実習センター助手

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