中部大学教育研究17
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向上させるとともに、昨今では教授(professorofteaching,professor,teachingstream)への昇進も可能にしてモチベーションの維持に努めている。TSF制度導入による各国共通のメリットは、教育(teaching)に焦点を当てた貢献や、学生のニーズに応え、学科固有のニーズを表明できることにある。また、教育に関与したいと考える教員に確かな雇用を提供することも然りである。TSFは終身雇用の専任でフルタイムの教員であり、非常勤教員とは異なりキャンパスに常駐するがゆえに、多くの時間学生と向き合い、彼らの要望に焦点を当てて教育を担うことができる。一方、TSFのデメリットもまた明らかになっている。主要なデメリットは、この制度が教育と研究、サービスの間の業務負担の適切なバランス、いわゆる教育:研究:サービス=40:40:20をなし崩しにし、教員団の内部にある文化的な齟齬(たとえば、第二の教員グループの出現)を生み出す危険性である(Vajoczkietal.,2011,pp.6-7)。しかし、2011年にVajoczkiらが行ったTSFへの調査によれば、TSFは自らのポジションについてかなり満足して従事しているように見受けられる。それより約20年前のRajagopalの有期雇用フルタイム教員や非常勤教員の調査結果とは大きく異なり、上記調査に参加した人の半数を超える者(53%)がもともとTSFの職を嘱望していたと報告し、87%がTSFの現在のポジションに満足もしくは非常に満足していると報告している。TSFにもし機会があれば伝統的なディシプリン・ベースの研究と教育を担う教員契約(RSF)に異動するかと尋ねると、75%が現在のポジションに残ることを選択すると答えている(Vajoczkietal.,2011,p.4,p.27)。カナダにおいてTSFの職を希望する者は、RSFが研究資金を獲得し、研究成果を挙げることに汲々とした生活を送っているのを見て、自らはより満足度の高い生活を送るために、新たな大学教員のポストとして創設されたTSFに期待を見い出そうとしていることがうかがわれる13)。2.3各国の事例(導入の経過と現状)①各国のTFS導入の経過と現状の俯瞰前述のVajoczkiらの報告書にまとめられた各国のTSF導入の経過と現状を一覧にしたものが表2である。なお「かつてのタイプ」とは、SchusterとFinkelstein(2006)の分類をもとに同報告書で用いられた、各国の高等教育においてかつて主流であったタイプを指す。また、②以下はVajoczkiの報告書に記載されている以外の主要な状況を筆者が概観したものである。②イギリスの個別の事例イギリスでは1992年に行われたポリテクニクスの大学への昇格に伴い、新たに大学に参入した大学には学位授与権を与えない形で改編が進められてきた。イギリスの高等教育機関は、研究重点大学(researchintensiveuniversities:RussellGroup)、それ以外の1992年以前の大学(otherpre-1992)、1992年以降の大学(post-1992)、2004年以降の大学(post-2004)、そして高等教育カレッジ(HEcolleges)の5つのタイプに分類されるが、LockeとBennionは、1992年(カーネギー大学教授職国際調査)と2007年に実施されたイギリスの大学教授職に関する調査14)を比較し、イギリスの大学の重要な変化は高等教育機関の5つのタイプによって大きく異なることを発見した。たとえば公的な研究資金だが、全体の収入が減少するなか、その予算が上位の研究大学に集中し、2006/07年度には、全大学数の中央値に位置する大学で前年度より4%減少した総収入の3%分しか公的な研究資金を受け取ることができていない。ただし上位10%の大学でも前年度より総収入が21%減少し、研究資金は総予算の21%分しか受け取っていない(Locke&Bennion,2009,pp.3-4)。その間、学生数は86%の増加を見せるとともに、教員数も100,000人から170,000人に増加した。170,000人のうち、フルタイムとパートタイムはそれぞれ67%と33%、フルタイム、パートタイムに関わらず終身雇用と有期雇用の比率はそれぞれ62%(うち、フルタイム72%、パートタイム28%)と38%(うち、フルタイム44%、パートタイム56%)となっている(Locke&Bennion,2009,p.1,p.6)。この間の変化で顕著なことは、教員全体としては教育(teaching)へのエフォートと関心が減り、研究が増えていることである。学期中の週当たりの教育へのエフォートは1992年の20時間(学期外は5時間)から2007年の15時間(学期外は6時間)に減少し、学期中の研究は1992年の10時間(学期外は20時間)から2007年の10時間(学期外は25時間)に増加している。教育への関心についても「主に教育」と応えた教員は1992年の12%から2007年の11%に、「双方だが、どちらかというと教育よりも教育に関する研究」が32%から28%に、「双方だが、どちらかというと研究」が40%から37%に、「主に研究」が15%から24%に変化している。特に2007年に調査に応じた全教員の5.8%を占める30歳以下の教員では63%(有期雇用に限れば71%)が「主に研究」と応えているが、これは研究重点大学で、有期雇用の若手の教員が研究専念教員(research-onlyfaculty)として多数雇用され始めたためである(Locke&Bennion,2009,p.7)。―4―中部大学教育研究No.17(2017)

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