中部大学教育研究17
138/224

さぼてん農家の青年、高蔵寺ニュータウンの高齢者ヘルパー、春日井市の警察官であり、この土地固有の事象をゲーム内に取り込むことを前提に構成している(図4)。またゲームシステムにはマスクパラメーターとして「かすがいポイント」を設定しており、プレイヤーの選んだ選択肢によってこのポイントが増減する。これによって、主人公や攻略キャラクターの性格が変化していき、また登場人物たちの進路やエンディングにも分岐が発生することになる。図4かすがいプリンスゲーム画面一例このゲームの制作においては、学生世代に圧倒的な認知度を誇るゲームというメディアを最大限に活用することで、学生のモチベーションを高め、自主性を重んじた能動的なプロジェクト型教育の実現を目指した。プロジェクトの過程で、12回にわたる春日井市への調査(「春日井まつり」等のイベントを含む)と関係者への聞き取り調査、記録撮影に注力した。ゲーム内で登場する背景画像や環境音なども、この調査時に記録したものを用いている。本ゲームの制作において、その過程における情報スキル、コミュニケーションスキルを含めた様々な教育効果が第一の成果として挙げられる。さらに、本ゲームは地域教育という側面も持っており、制作過程で能動的に地域の情報を取得し、それをゲームに取り込んでいくことになる。これが第二の成果である。第三の成果としては、もちろん本プロジェクトで開発を行ったゲーム作品が挙げられ、このゲームの頒布によってこのプロジェクトは完結したといえるだろう。結びにかえて2013年3月、オバマ前米大統領は自身の政策ブレーン(科学技術政策アドバイザ)として、ゲームデザイナーのマーク・デノーラを起用している。それ以来、産業としてのみならず、ゲーム制作のノウハウ自体が米国の政治の中枢においても重要視されるようになってきた。米国では教育機関におけるビデオゲーム教育の重要性を公言しておりまさに、小学生にペットボトルロケットの制作を推奨したかつての宇宙教育のように、ビデオゲームは米国の教育にも取り込まれてきている。ビデオゲームは「教育を阻害するもの」から、「人々を豊かにするもの」へと大きなパラダイム変化を起こしたといえる。ゲームは最先端かつ独自の情報技術を駆使して制作される。そして、ゲームを制作するためには高い情報リテラシーを必要とする。同時にゲームのルールを「説明」するためのノウハウがゲーム開発の現場には蓄積されており、それらは今日の社会において欠かすことのできない重要な意味を持つといってよい。もちろん、ゲーム制作というグループワークによってもたらされる教育効果も無視できない。情報スキルへの関心だけでなく、コミュニケーションやファシリテーション、タスクマネジメントなど、複合的な教育効果がそこに認められる。このようなゲーム制作の敷居が低くなったのは、本論で述べてきたようにゲームエンジンによるところが大きい。そのため、情報スキル教育に重きを置かない人文系教育機関においても、グループワークを伴うゲーム制作という過程を通じて、協働力や企画力、実行力を育み、タスクマネジメントやリスクマネジメントといった能力の育成が可能になった。加えて、情報スキルへの関心を誘発させ、学生を主体的な学習へと誘う効果も想像できる。これも、高度情報化が進む現代社会において、各々が持続可能な営みを実現するために重要な意味を持つと思われる。今回の筆者の実践では、春日井市をテーマとした地域振興型ゲームとして恋愛シミュレーションゲーム「かすがいプリンス」の企画・開発を試験的に行った。グループワークや情報デザインに関する教育効果など、開発過程においてプロジェクトメンバーが学んだ点は多い。他方で、春日井市の魅力を知ることも本プロジェクトの重要な成果であり、「地に育てられ、地を育てる」という「地育」のスタートアップとしても位置づけられると考える。注1「ゲーミフィケーション」についてはジェイン・マクゴニガル他(2011)『幸せな未来は「ゲーム」が創る』などが詳しい。2「中高生が思い描く将来についての意識調査2017」http://www.sonylife.co.jp/company/news/29/nr_170425.html(最終閲覧日:2017年9月21日)3「ゲーム開発者の生活と仕事に関するアンケート―124―中部大学教育研究No.17(2017)

元のページ  ../index.html#138

このブックを見る