中部大学教育研究17
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加えて、近年、異様なまでの盛り上がりを見せるインディーズゲーム業界においても、ゲームエンジンは大きな役割を果たしている。インディーズゲームとは、ポピュラー・ミュージックにおける「インディーズレーベル」と同様に、非プロのゲーム制作者が制作・頒布を行うゲーム群のことを指す。インディゲーム業界の規模は年々巨大化しており、「TOKYOSANDBOX」や「bitSUMMIT」といったインディーズゲームにフォーカスをあてたゲームイベントも、例年数多く開催されている。七邊(2006)はインディーズゲームの制作過程を検証することで「同人・インディーズゲームを制作・頒布を可能とする構造的条件」の重要性を指摘している。そこで、今日のインディーズゲームの制作・頒布を支えているのがゲームエンジンである。プレイステーションのプラットホームフォルダーであるソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)と、「Unity」を提供するユニティ・テクノロジーズは2014年に提携を開始し、プレイステーション用ソフトウェアの開発が可能な「UnityProforPlayStationR」を無償で提供している9。これによって、据え置き型のゲーム専用ハードウェアにおいても、プロとアマチュアが同じ条件で制作と頒布が可能となった。インディーズゲームがゲーム専用機で頒布されることは、マスクROMを取り付けた基盤を内蔵したカセット型ソフトウェアでゲームを頒布していた「ファミリーコンピュータ」や強力なプロテクトがかけられた専用の「CD-ROM」を用いていた初期の「プレイステーション」の時代では考えられないことである。音楽をはじめとする他の業界でもしばしば指摘されるように、プロ/アマの敷居が急速に低くなったのは、インターネットの発達によるところが大きいが、ゲーム業界においてはゲームエンジンの存在も大きな意味を持っているといえるだろう。4デジタルゲーム制作の実践例本章では、中部大学において筆者が実施したゲーム制作プロジェクトを実践例として述べる。このプロジェクトでは、愛知県春日井市を舞台とした恋愛シミュレーションゲーム「かすがいプリンス」を制作した。「かすがいプリンス」の制作は2014年度「中部大学チャレンジ・サイト」における採択課題「地域共創をテーマとしたWebコンテンツの企画開発」の一環として開始し、その成果を基盤とし発展させた筆者の自主ゼミにおいて進めてきた。このように正課教育外で行ってきた活動であるが、そこで得た知見は2017年度以降の中部大学人文学部コミュニケーション学科における情報デザイン教育に活かされている。「かすがいプリンス」はデジタルゲームの特性を活かしつつ、地域密着・振興を目的としたゲームの企画開発を行っている。今日では、GPS機能や仮想現実・拡張現実技術の向上により、まちづくりや観光事業とコンピュータゲームを結びつける活動は散見されるようになってきている。その中で、今回は(1)学生の生活文化圏である愛知県春日井市をテーマとすること、(2)学生が中心となったプロジェクトであること、(3)学生各自の専門性を越境したプロジェクトであることの三点を中核とし、ゲームを通じて春日井市の歴史や文化に触れ、また地元との双方向的な絆を強化することを目的に進めてきた。本作品の舞台は愛知県春日井市であり、プレイヤーの恋愛対象となる男性も春日井市に実在する様々な職業の人物をモデルとしている。たとえば市役所職員や地元の大手企業である王子製紙の社員、名産物「さぼてん」の農家、春日井市出身の書家である小野道風の関係者、中部大学および併設高校の学生、教職員など春日井市固有の設定を尊重しており、各々の綿密な取材を行った上でキャラクター設定からシナリオまでを組成している。同ゲームは地域連携性とゲームとしての面白さの両面を備えた内容となっており、ゲームを軸として春日井市の様々な情報を全世界のプレイヤーに伝える地域振興やコミュニティ形成を念頭においたものである。本ゲームの制作は、計8名の学生を核としたプロジェクトとしてゲームエンジンを用いて行った。女性向け恋愛シミュレーションゲームのヘビーユーザーが中心となってゲームデザインを構築し、スプリクト、グラフィック、シナリオ、サウンドの各パートをそれぞれが分担することでグループワークとしている。先述したように作品に登場する場所、出来事、人物は、すべて愛知県春日井市に実在するものをモチーフとして構成しているため、地域への綿密な取材をもとに企画書を作製し構築している(写真1)。具体的な取材内容として、まずは春日井市の様々なイベント、土地はもちろんのこと、春日井市が抱えているニュータウン高齢化問題などの社会問題に関しても取材を進めた。本作品に登場する主要キャラクターは、春日井市に所在する中部大学の学生、地元企業の新入社員、―123―「ゲームデザイン」を活用した大学教育の可能性写真1取材時風景

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