中部大学教育研究17
136/224

グラフィックス面におけるゲーム的表現の他分野への応用事例としては、2016年に放映された大河ドラマ「真田丸」が挙げられる。同作では、作品中にしばしば、3DCGで描かれた日本地図が登場し、登場人物たちの行動を音声によるナレーションだけでなく地図上で示すことで状況説明や相関を分かりやすく説明している(図2)。この地図はNHKの内製ではなく、コーエーテクモゲームスが開発している人気ゲーム『信長の野望:創造』(2014)で用いられているCGを、同社の協力のもとに借用したものである(図3)。『信長の野望』シリーズは戦国大名を操作して天下統一を目指す戦国シミュレーションゲームである。自身が統治する地域の情報や、日本全国の大名の動向、出陣した軍勢の状況など、多岐にわたる複雑な情報をリアルタイムにわかりやすく提示する必要がある。そのために用いられた3DCGの日本地図や情報デザインが、テレビドラマの表現にも用いられたのである。テレビ局各社の中でも特に先端的技術を保有するNHKがゲーム開発会社と提携している点からも、ゲーム業界が持つノウハウの特異性と実用性が証明されたとみてよいだろう。図2『真田丸』(2016)よりCNHK図3『信長の野望:創造』(2014)よりCコーエーテクモゲームス以上で述べてきたように、ゲームの情報デザインには優れた「ユーザーエクスペリエンス」を促すためのノウハウが蓄積されている。したがって、ゲームデザインという過程を通じて、我々はそのノウハウを試行錯誤し、それによって吸収していくことが可能となる。加えてゲームは集団によって制作されるものである。プランナー、アーティスト、サウンドクリエイター、エンジニア、マーケティングなど、多岐にわたる専門が組み合わさって成立するゲーム制作は、先述したようにコラボレーションやファシリテーションのコミュニケーションスキルなくして成立し得ない。その意味で、ゲーム制作という過程自体が、理想的なグループワークの実習にもなりうるのである。3デジタルゲーム制作環境の変遷:ゲームエンジンの一般化ゲーム開発の難易度は年々増してきており、その対策としてゲームエンジンが用いられることが増えてきている。ゲームエンジンとは、ゲーム制作のために使用されるソフトウェアのことを指す。具体的には「ゲーム制作において共通して用いられる主要な処理(物理演算とか描画処理とか)を代行し効率化するソフトウェアとのこと」であり、いわゆる「ミドルウェア」とよばれるツールである。2017年現在、主要なゲームエンジンとしては「Unity」「UnrealEngine」の二点のゲームエンジンがトップシェアを占めている。その他、Webベース(Javascript)のものとして「Cocos2d-x」などがある。デジタルゲーム制作のための「ミドルウェア」は、80年代から一般的に用いられてきた。例えばハードウェアホルダーがサードパーティのゲームソフト開発会社に提供する開発用ツールもそれにあたるし、サードパーティ各社が独自で作製した開発用ツールも存在する。これらは、制作会社におけるゲームソフト開発の効率化を推し進めることを目的に用いられてきた。その後、ゲームエンジンという言葉が一般的に用いられるようになったのは、21世紀以降である。デジタルゲーム制作の環境が複雑化し、映画に勝るとも劣らない規模での開発が行われるようになったことと、マルチプラットフォーム(たとえばAndroidとiOSや、「PlayStation4」と「Nintendoswitch」など)でのソフト提供が一般化したことが挙げられる。ゲームエンジンは、開発の大規模化による複数の企業や地域をまたいだ開発環境を維持するために最適であるし、プラットフォームやローカライズに関する移植の問題を一切考慮せず開発を行える点に優位性がある。このようなクロスプラットフォームへの対応が、ゲームエンジンの最大の優位点である。その反面で、ゲームエンジンの仕様や制約の中で開発を行わなければならないということがゲームエンジンを用いる際の問題点として挙げられ、必然的に開発の自由度は制限される8。―122―中部大学教育研究No.17(2017)

元のページ  ../index.html#136

このブックを見る