中部大学教育研究17
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5名の教員が所属しており「既存のゲームやサービスを単に追従するのではなく、時代と連動しながら独創的な娯楽コンテンツを発信」することを目的としたカリキュラムが組成されている6。また、立命館大学映像学部では元任天堂株式会社第二開発部長であった上村雅之が筆者と合同で行ってきた「遊びの映像化」をテーマとしたゼミも開講されていた。このゼミでは、多くのゲーム開発教育機関が行っている専門的かつ高度な情報技術(およびそのツールに関する)の指導ではなく、アナログゲームの制作と、その「遊び風景」の映像撮影とを通じて、「遊びの面白さ」のみに焦点を当てた教育が行われている。立命館大学もまた、ゲーム開発企業へ多くの人材を輩出している教育機関である。2ゲームデザインの特色と教育の意義情報技術が急速に発達し、人々の生活に浸透するようになった今日において、情報技術に関わるデザインの方向性も変化してきている。そのような状況下で注目されるようになってきた「情報デザイン」といわれる分野が目指す領域は、よりよい体験をうみだすための研究、すなわち「ユーザーエクスペリエンスデザイン」のためのものである。浅野ら(2014)による「情報デザイン分野のデザイン教育」によると、「潜在的なニーズを探り当て、本当に嬉しい体験をうみだすためには、造形表現のスキルにとどまらないデザイン能力、例えばユーザーを知るための質的調査や仮説検証プロセスに関する知識が不可欠」だという。加えて、昨今のデザインには、コラボレーションやファシリテーションのコミュニケーションスキルが重要となっており、個人による創造性だけでは解決が困難な問題を組織的に対処していく能力が求められているという。このような「情報デザイン」の典型例であると同時に、それを先駆的に実践してきているのがゲームデザインの分野である。まず、ゲームは実用品ではなく「あそび」のための玩具、すなわち嗜好品である。加えて、子どもが主なターゲットとなっていることから、誰もが遊びやすく、分かりやすいデザインにする必要がある。その意味で、直感的に操作が可能なインターフェイスであったり、理解が容易な目的の設定、そしてグラフィックスやサウンドを多用しつつ、十二分にアフォーダンスを活用することが1980年代の時点から行われてきている。このようなデザインは、ゲームという「商品」の特性上不可欠なものであり、それゆえに他の様々な電子機器に先行して進められてきているのである。例えば、「ユーザーエクスペリエンス」を担保するための優れたインターフェイスデザインの最たる例として「十字ボタン」が挙げられる。尾鼻(2016)でも述べたように、任天堂が1982年に発売した「ゲーム&ウオッチ」の『ドンキーコング』には、主人公であるマリオを上下左右に動かす必要があるゲームであるため、「十字ボタン」が導入されている。ここで当時主流であった棒状のスティック型コントローラー(ジョイスティック)ではなく「十字ボタン」が用いられたのは、携帯型端末である「ゲーム&ウオッチ」の利便性だけでなく、ボタンを操作しているという触感をプレイヤーに与えるためである7。それ以降、「十字ボタン」はゲームのインターフェイスにおける常套的な手段となり、コントローラーを握って左手で選択、右手で決定、という操作方法が確立した。この操作方法は他の電子機器のインターフェイスにも影響を与えており、テレビや電子レンジ、エアコンなどのリモコンにもゲーム的インターフェイスが取り入れられている。「複雑な機能をモニタ上のインフォメーションに従いながら決定していく」という過程において、ゲーム的インターフェイスは極めて優秀であることがその理由であろう(反して、必ずモニタを必要とするというのがゲーム的インターフェイスの欠点でもある)。とりわけ、SONYのテレビやブルーレイレコーダーに搭載されている「クロスメディアバー」は、リモコンに搭載された十字型のボタンでの操作に最適化されたインターフェイスである(図1)。「クロスメディアバー」の特徴は、横軸にカテゴリー(フォルダ)が、縦軸に各カテゴリーの項目(ファイル)が並び、縦・横にカーソルを移動することで操作を行うというものである。従来であれば段階的に階層を潜っていく必要があるテレビやブルーレイレコーダーのメニュー画面において、直感的に全体像を把握し、最小限の操作回数で機器操作を完了させることが可能となる。図1「クロスメディアバー」(SONY)―121―「ゲームデザイン」を活用した大学教育の可能性http://manuals.playstation.net/document/jp/ps3/current/basicoperations/xmb.html(最終閲覧日:2017年9月21日)より引用

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