中部大学教育研究17
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2017」に参加したゲーム制作者へのアンケート結果によると、ゲーム制作者の「最終学歴の学問系統」は大卒が42%、専門学校卒は31.9%となっており、大卒者の「最終学歴の学問系統」の統計によると、人文学が46%、社会科学4%、工学が27%と、意外にも人文学を専攻した学生が最も多くゲーム制作に関わる職業に就いている3。加えて、ゲーム制作業を職種別に行った「最終学歴の学問系統」の分布調査を参照すると、サウンドクリエイターを除くすべての職種で最も多い学問系統が「文学・語学・史学・文化人類学系」であることから、ゲーム制作のほぼ全ての職種に「人文学」を専攻する者が就いており、理工系の比率が職種を問わず人文系より低いことが理解できる(表2)4。表2「最終最終学歴の学問系統」以上から、少なくとも男子中高生にとってゲーム制作者は「あこがれの職業」であること、そして、「理系」の学生でなくとも(理数系の専門的知識を有していなくとも/苦手としていても)ゲーム制作者を目指すことが実質的に可能であり、むしろ「理系」以外を専攻した人間のほうが実際に職に就いているということが読み取れる。これらを踏まえ、本論では「人文科学」のカリキュラム上に導入可能なゲーム制作を用いた大学教育についての可能性を検討していきたい。1ゲーム制作教育の実情と課題ゲーム制作の最大の問題点は、この30年余のデジタルゲームの急速な進歩により、その制作フロー自体が極めて複雑化したことにある。要求されるスキルも多岐にわたり、習得を要するアプリケーションの種類も増加傾向にあることから、ゲーム制作業への人材輩出を目指す教育機関にとって、四年間という時間制限を伴ったカリキュラム組成は難題といわざるをえない。そこで本章では、ゲーム制作教育に早期から着手してきた東京工科大学と立命館大学を例に挙げて、その状況を整理したい。東京工科大学メディア学部東京工科大学メディア学部は、大学におけるゲーム教育の黎明期から、その取り組みを意欲的に行ってきた機関である。渡辺(2015)によると、大学におけるゲーム教育が困難な要因として「学部学科が専門領域ごとに縦割りに構成されていること」があるという(渡辺:2015p.1206)。これは近年のゲーム制作のためには多種多様な専門家が必要となり、従来的な学部学科のコミュニティでは人材がまかなえない、ということに裏付けられている。渡辺によると、東京工科大学メディア学部は学際的な教育機関としての土壌を持っており、その結果、ゲーム制作を実習として学ぶための基盤がもともと備わっていたという。その反面で、学際的な教育機関の欠点は、学生の素養が「広く浅く」なってしまう点だという。渡辺によると、最もその傾向が出やすいのがゲームプログラミングの分野だという。昨今のゲームプログラミングはリアルタイム3Dの処理が必要となるため、プログラミング言語のみならず、数学や物理の素養を要する。この点が一つのボトルネックとなるのである。そこで東京工科大学では、「FinekernelToolkit」という独自の開発用ツールを用いて学生教育を行っている。「FinekernelToolkit」はリアルタイム3DCGを描写するためのツールであり、マルチプラットフォーム上においてC++言語とOpenGL環境で用いることが可能となっているという。それによって、学生同士の共同開発など、様々な教育現場においてストレスなくカリキュラムを導入することが可能になるという。このように東京工科大学では、リアルタイム3Dというゲーム制作教育のための最大の難関を、独自ツールを用いることでクリアし、プログラム教育とグラフィックデザイン教育の両面から四年間の年月をかけて人材育成を行っている。同大学は、日本最大規模を誇るゲームの見本市である「東京ゲームショー」に教育機関としてブースを構えており、学生の作品展示を行っている。加えて、世界的なゲーム制作のためのハッカソンである「GlobalGAMEJam」にも多数の学生を送り込んでおり、OJT形式での人材育成と交流も積極的に進めている5。立命館大学映像学部立命館大学もまた、ゲーム教育に関する長い歴史を持つ国内の研究機関である。ゲーム制作の領域においては、映像学部において先駆的な活動がみられる。「ゲームゼミ」とよばれるゲーム制作を専門に教育するゼミナールでは、かつてゲーム開発会社の第一線でゲーム制作を経験してきたクリエイターを中核とした―120―中部大学教育研究No.17(2017)http://cedec.cesa.or.jp/2017/documents/enquete_2017.pdf(最終閲覧日:2017年9月21日)より引用

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