中部大学教育研究17
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序論1978年に登場した『スペースインベーダー』は、日本中から100円玉硬貨が消えるかのような「インベーダーブーム」を引きおこし、社会現象となった。その後、家庭用ゲームコンソールの代名詞とまでなった「ファミリーコンピュータ」が1983年に発売されたことによって、デジタルゲームは日本の新しい文化のひとつとして根付いた。そして政府の「クールジャパン構想」からも読み取ることができるように、デジタルゲームは日本が世界に発信すべき文化としての市民権を得たといってよい。さらに今日では、ゲームを教育に活用する「シリアスゲーム」といった領域に限定することなく、ゲーム制作のノウハウを社会生活のさらなる実りに応用するような、いわゆる「ゲーミフィケーション」とよばれる事例が注目を集めてきており、デジタルゲームは娯楽・文化としての役割を超えた存在となったといっても過言ではない。「ゲーミフィケーション」とは、ジェイン・マクゴニガルらが提起した概念で、「ゲーム制作の過程で蓄積されてきた固有の思考方法やメカニクスを他分野に応用し、ユーザーをひきつける効果を高めるための方法論」を指す(マクゴニカル:2011)。これらの試みは、欧米では既にビジネスや医療の現場でも多く適用例をみることができる1。以上を踏まえて、本論では、人文科学を専門とする教育機関にデジタルゲーム制作を取り込むことによる効果について論じることを目的とする。人文科学を専攻する学生の多くは、教育カリキュラム内にプログラミングや数学ないしアプリケーションの使用方法に関する科目が含まれていない。すなわち専門的知識を保持していないといえる。またカリキュラム構成上において、いわゆるゲーム開発に関する基礎的技術を身につけるための科目を積極的に加えることにも困難を伴う。このような状況から、専門的知識を要さずゲーム制作を行うための環境構築が重要となる。その反面で、ソニー損保が調査した「中高生が思い描く将来についての意識調査2017」の「中高生が思い描く将来なりたい職業」に目を向けると、男子生徒では、ゲームクリエイターはITエンジニア・プログラマーに次いで2位にランクインしており、女子生徒でも7位と比較的上位に位置している(表1)2。表1「将来なりたい職業」加えて、「セサ・コンピューターエンタテインメント・デベロッパーズ・カンファレンス(CEDEC)―119―「ゲームデザイン」を活用した大学教育の可能性尾鼻崇*要旨人文科学を専攻する学生の多くは、教育カリキュラムの中にプログラミングや数学ないしアプリケーションの使用方法に関する科目が含まれておらず、情報スキルの専門的知識を保持していない可能性が高い。本論では、そのような状況において、専門的知識を用いないゲーム制作環境を構築し、ゲームデザイン教育を教育機関において推し進める意義を実践的に検討した。その結果、学生の協働力や企画力、実行力、そしてメディア・リテラシーを育み、情報スキルへの関心にも好影響をもたらすことが指摘できた。キーワードデジタルゲーム、ゲーム教育、ゲーム制作、ゲーミフィケーション、メディアリテラシー*人文学部コミュニケーション学科講師http://www.sonylife.co.jp/company/news/29/nr_170425.html(最終閲覧日:2017年9月21日)より引用

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