中部大学教育研究17
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対的に先細りし、すべての大学に等しく予算配分、補助金配分をすることが困難になっている現状も同様で、国際的な研究成果を生み出せる一部の大学への重点的な予算配分の実施がほとんどの先進国で見られる。加えて、カナダ、イギリス、オーストラリア、さらにアメリカでは、1990年代から2000年代前半にかけて、教育に対する説明責任について問題が指摘されうる有期雇用や契約雇用、非常勤教員への依存が急激に増加したことも背景に挙げられるであろう(Vajoczkietal.,2011,p.14)。イギリスやオーストラリア、アメリカの状況については2.3節で述べるが、カナダにおいてもこの間に学士課程の教育責任が大きく有期雇用や非常勤教員にシフトした。StatisticsCanada(1999-2000)によると、トロント大学の有期雇用フルタイム教員は1991年の464名から2000年には901名とほぼ倍増し、ウェスタン・オンタリオ大学では1991年の226名から2000年には327名と45%も増加した。また、StatisticsCanadaが実施したPT-UCASS(Part-timeUniversityandCollegeAcademicStaffSurvey)によれば、1990-1991年から1997-1998年にかけてカナダ全土の大学、短大の非常勤教員は25,700名から大学・短大教員の45%に相当する28,200名に増加し、これは率に換算すると10%以上も増えていることになる(Teresa,2003,p.10)。一方、1990年時点での有期雇用フルタイム教員の入職時の職位は3分の2近くが助教授(assistantprofessor:39%)と講師(lecturer:24%)であり、彼らは基本的に授業のみ(主要な責任は教育と答えた比率:男性83.6%、女性94.7%)を担当することを期待されていた(Rajagopal,2004,p.57,pp.68-69)。有期雇用という点を除けば彼らは実質的にTSFであり、彼らの一部がその後、TSFに転身していくことになる。また、非常勤教員のほとんどは単一のクラスを担当し、結果としてキャンパス外で自らの生活費を稼ぐことを余儀なくされる。これは大学にとっては危機的な意味を持つ。すなわち、彼らは学生にとって授業外でのコンタクトがとれず、(特に初年次などより密接な教員と学生の関係が必要な)学士課程に特化した仕事を任せられず、機関として彼らにコミットすらできないからである(Vajoczkietal.,2011,p.9)。この問題も、その解決策としてTSFの導入につながっていくことになる。さらに、Rajagopalが1991年から1992年にかけてカナダの大学に勤める1,700名の有期雇用フルタイム教員と非常勤教員に行った調査(回収率48%)によると、有期雇用フルタイム教員の77.8%、非常勤教員の53.3%が伝統的な大学教員のキャリアを求め、テニュア・トラックを嘱望していたと述べている。しかし、それは通常、実現することはなく、「契約の罠(contracttrap)」にはまってそのまま続けるか、キャリアに「非正規(temp)」のラベルを張られ、最初から門前払いされるしかないのが当時の実情であった(Rajagopal,2004,p.62)。カナダにおいては、これらの状況の打開策の一つがTSF制度の導入であったと言えよう。また、各国とも名称こそ異なれ、不安定な教員のポストではなく、教育に特化したフルタイムの終身教員を任用し、彼らの身分を保障することによって教育の質と量を維持・―3―カナダおよび先進諸国の教育専念教員の実態について表1TSFのテニュア資格と昇進のための規準(UBC,2014)teachingeducational leadershipservice

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