中部大学教育研究17
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同様のシステムを開発・運用していると聞く。1.2Cumoc利用による学生と教員のメリットCumocに限らず、クリッカーシステムを授業に利用することで、学生と教員にとって多くのメリットがある。クリッカーシステムを授業に活用する試みは、10年ほど前から行われているが、ここ数年は、クリッカーシステムをいかに教育効果の向上につなげていくかという具体的活用手法に注目したり、アクティブ・ラーニングの手法のひとつとして取り上げられている(鈴木他,2008;山田,2008)。たとえば、伊藤(2017)は、アクティブ・ラーニングで授業中に意見を求められることをいやがる学生が、そういった要素のある講義を敬遠することをあげ、そういった学生でも、能動的に学修し、意見を表明できるツールとして、クリッカーが有効であるとしている。また、山際(2013)は、クリッカーを授業設計に組み込み、数学の問題を授業中に周りの学生と相談して解かせ、クリッカーで答えを確認しながら進めることで、講義後の成績に有意な差があり、クリッカー利用が、授業での教育効果向上につながることを明らかにしている。さらに、大日向ら(2015)は、医療系の国家資格試験対策にクリッカーを活用している。その理由は、講義中に質問を呼び掛けても反応がなく、質問はないと理解して授業を進めた結果、定期試験の結果で初めて講義内容を理解していない学生の実態に気づくといった「タイム・ラグ」を解消するためだという。クリッカーは、学生の理解度を教員側にリアルタイムにフィードバックすることを可能にするため、試験対策に有効であったことが報告されている。中部大学大学教育研究センターでは、教職員向け配付物においてCumocというモバイルクリッカーを利用した場合の教育効果を、学生側と教員側のメリットに分け、あわせて6点あげている。学生側のメリット1大人数授業においても双方向型の授業の実施が可能になる。2匿名性による回答のしやすさがある。(集計結果がリアルタイムに得られ、学生が他の受講生の意見を理解し、参加意識が向上する。)3受講生の気分転換と集中力アップにつながる。教員側のメリット4回答のしやすさから多くの学生の意見・考えが一度に回収できる。(挙手ではとらえられない少数意見の吸い上げが可能になる。)5学生の理解度を教員がリアルタイムに把握可能になる。(教員が学生の理解度を把握、ケアすることで授業改善、授業の活性化に役立てることができる。)6記憶定着効果を上げることが可能になる。こうしたクリッカーシステムを使った効果は、他の研究成果においても確かめられている。たとえば、伊藤(2017)や山際(2013)においても、「他の人の意見がわかって興味深かった」「挙手で回答しづらい内容も回答できた」「ほかの人の意見が分かって興味深かった」といった学生からの肯定的な反応を得ている。また、伊藤(2017)においては、学生が予習へのやる気を高めていること、山内(2015)では、復習へのやる気が高まっていることが明らかにされている。2授業の活用方法の変遷2.1Cumocを導入した最初の授業筆者がCumocを最初に利用した授業は、人文学部で開講されている「行動科学Ⅱ・B」である。2010年度の秋学期に開講され、受講生は人文学部の心理学科、コミュニケーション学科、歴史地理学科2年生が対象であった。受講生は145名だが、出席している学生は110名程度であった。使用した講義室は、現在は不言実行館になっているが、階段状で扇型になっており、前面のスクリーンがどの席からも見やすくなっている。Cumocを利用した授業は、Cumocを管理している大学教育研究センターにとっても試行授業であり、可能な限りCumoc使用の頻度を上げて、学生の反応を見るという意図もあった。そこで、「行動科学Ⅱ・B」の授業では、小テストとレポートを実施した3週分以外の12週間、すべての回で、授業冒頭と中間、最後の3回ずつCumocを使う機会を授業内容に組み込んでいる。冒頭では、先週の授業内容の理解度チェックやこれから学ぶ授業内容の予備知識に関する質問で構成し、授業へのレディネスをつくることを心掛けた。また、集中力が途切れがちな中間での利用では、次の話題に転換するためのロールプレイや、授業の前半内容に関する反応をたずねるようにした。授業の最後では、当該授業の理解度をたずねたり、次週の授業内容への導入的な質問を投げかけ、自由記述欄に授業内容の感想や質問を記入するように呼び掛けた。質問への回答結果についてはリアルタイムに見せて共有するが、自由記述欄の内容については、次週の授業までに筆者が読んで、次週の冒頭で紹介した。当時は、ガラケーと呼ばれる携帯電話が主で、まだスマートフォンは少数派であったが、携帯電話を持っ―114―中部大学教育研究No.17(2017)

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