中部大学教育研究17
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いることが示された。何を学んだのかを意識しつつ学習することは、メタ認知的学習方略であるといえる。メタ認知的学習方略は、学習内容どうしを関連付けたり、既知の知識と関連付けたりする深い処理を促し、また学習の持続をも促進する(梅本,2013)。したがって、「自己開拓」を受講するだけでなく、そこから何を学んだのかを意識化させつつ授業を展開することが、キャリア意識の発達に重要であることが示唆される。また、受講理由は受講による意味づけほど、教育効果に影響を及ぼすことはなかった。しかし、受講理由と受講による意味づけの人数には偏りが見られ(χ2(4)=12.24,p<.05)、受講理由がない人は意味づけもできない人が多い(p<.01)。また、受講理由がない人は意味づけにおいて自己理解の深まりを感じられるようになる人は少ない傾向がある(p<.10)。さらに、受講理由として自己理解を深めたいと思った人は意味づけができない人は少ない(p<.05)。これらのことから、受講理由は意味づけができるかどうかに影響を及ぼしており、その意味づけが教育効果に影響を及ぼしている可能性がある。したがって、受講理由がない学生には注意深くかかわる必要がある。「何を学んだか」を意識化させることをしっかりと行わないと、教育効果が低まり、キャリア・アダプタビリティに関しては低下すらしてしまう。これらのことから、まずは受講理由を把握し、さらに授業ごとにその授業で学んだことを意識化させることが重要である。特に、受講理由が自己理解の深まりやコミュニケーション・スキルの向上以外の理由、もしくは特に理由のない学生には、意識化をしっかりと行っていくことで、「自己開拓」の教育効果がより顕在化していくと考えられる。5キャリア教育科目「自己開拓」への提言2010年度から2016年度までの7年間のキャリア教育科目「自己開拓」の短期的教育効果の検討を総括すると、以下の3点を主な結論として挙げることができる。第一に、「自己開拓」を受講することは、進路選択に対する自己効力感や時間的展望、キャリア・アダプタビリティといったキャリア意識の発達や、自尊感情やコミュニケーション・スキルといった大学生活を充実させる汎用的能力の発達に貢献している。したがって、本格的に自分のキャリアに向き合う上位学年での受講よりも、大学生活を充実させることでキャリア発達につながっていくと考えられる初年次での受講がより望ましいと考えられる。第二に、「自己開拓」の受講が中部大学で定着し、受講者が大学の中で増えていることによって、受講していない学生も含めた大学全体のキャリア意識が高まっている可能性が示唆された。今後、より「自己開拓」の受講を広めていくことが求められる第三に、「自己開拓」受講の教育効果を高めるためには、以下の授業構成や授業形態、および授業内容が望ましい。授業構成としては、少人数でグループワークにコミットメントしやすい40名程度のクラスサイズであることが挙げられる。授業形態としては、2コマ連続の短期集中型で、一つのテーマを1回に長い時間をかけて深く考えることが効果的である。また、各学生の受講理由を把握した上で、毎授業後に授業で何を学んだのかを考え、明文化させることで、「自己開拓」受講によって何を学んだのかを意識化でき、キャリア意識および汎用的能力の獲得が進むといえる。今後、これらの点を考慮しつつ、「自己開拓」のさらなる効果的なキャリア教育が望まれる。文献Carrier,M.,&Pashler,H.(1992).Theinfluenceofretrievalonretention.Memory&Cognition,20,633-642.Felsman,D.E.,&Blustein,D.L.(1999).Theroleofpeerrelatednessinlateadolescentcareerdevelopment.JournalofVocationalBehavior,54,279-295.藤本学・大坊郁夫(2007).コミュニケーション・スキルに関する諸因子の階層構造への統合の試み.パーソナリティ研究,15,347-361.ハラデレック裕子・林芳孝・間宮基文・小塩真司(2011).新たなキャリア教育科目の効果-「自己開拓」の概要と学生の成長-中部大学教育研究,11,43-47.北尾倫彦.(2002).記憶の分散効果に関する研究の展望.心理学評論,45,164-179.Nota,L.,Ginevra,M.C.,&Soresi,S.(2012).TheCareerandWorkAdaptabilityQuestionnaire(CWAQ):Afirstcontributiontoitsvalidation.Journalofadolescence,35,1557-1569.岡田涼・中谷素之(2006).動機づけスタイルが課題への興味に及ぼす影響.教育心理学研究,54,1-11.小塩真司・阿部晋吾・カトローニピノ(2012).日本語版TenItemPersonalityInventory(TIPI-J)作成の試みパーソナリティ研究,21,40-52.小塩真司・ハラデレック裕子・林芳孝・間宮基文(2011).新たなキャリア教育科目の効果-「自己開拓」による学生の心理的変化-中部大学教育研究,11,49-54.―109―キャリア教育科目「自己開拓」の教育効果

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