中部大学教育研究17
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いる。つまり「自己開拓」を受けていない学生も、秋学期前半から後半にかけてキャリア意識が向上したといえる。「自己開拓」を受講していなくても、キャリア意識が向上した理由としては、2点考えられる。第一に、「自己開拓」以外の全学生対象のキャリア教育の効果である。一年次秋学期から、すでにキャリア教育がキャリアセンター主導で行われている。また、中部大学全体のキャリア教育への意識が高まっており、各学科でスタートアップセミナーなどを通じたキャリア教育が一年次からなされるようになってきた。このようなことから、学生全体に対するキャリア教育の効果が表れたため、受講者と非受講者の間に差が見られず、どちらもキャリア意識が向上したと考えられる。第二に、キャリア教育「自己開拓」を受けた友人や先輩の影響である。「自己開拓」を受講する学生は年々増加していることから、「自己開拓」を受講し、キャリア意識が高まっている学生が、自分の周りに友人、先輩として増えていると考えられる。自己の進路選択やキャリア意識に、友人のかかわりは大きい。大学生は進路選択に関わる情報を友人から得ることが多く(下村・堀,2004)、友人との親密度が進路探索行動を促進するという(Felsman&Blustein,1999)。これらのことから、「自己開拓」を受講していない学生も、「自己開拓」を受講した学生と同等にキャリア意識が向上したと考えられる。一方で、「自己開拓」受講ならではの効果として、自尊感情の高まりが見られた。佐藤・杉本(2016)において指摘したように、自尊感情の高まりは人間関係の広がりや学業意欲の高まりを支えていることから、「自己開拓」は、充実した大学生活を支える感情を高める効果があるといえる。また、2015年度と同様に、「自己開拓」を受講することによるコミュニケーション・スキルへの自己評価の低下が明らかになった。特に、表現力、自己主張、他者受容、関係調整など、「自己開拓」におけるグループ活動で必要とされるコミュニケーション・スキルに対して、受講前よりも受講後の方がそれらができないと判断されていた。自己主張、他者受容、関係調整は、コミュニケーション・スキルの中でも対人的スキルを担っているという(藤本・大坊,2007)。「自己開拓」を受講することで、グループワークを通じて他者とのやりとりが多く行われ、対人的なコミュニケーション・スキルは向上するように思われる。しかし、他者とのやりとりを多く経験するほど、その難しさに直面する機会も増えると考えられる。そのため、「自分は意外と対人的なコミュニケーション・スキルが高くはない」とスキルの程度を正確に把握することが出来るようになる可能性が考えられる。自分の理解状況を正確に把握することで、学習が進む(Carrier&Pashler,1992)ことから、「自己開拓」の受講は対人的コミュニケーション・スキルを向上させるきっかけとなることが示唆される。これらのことから、2016年度においての「自己開拓」の受講は、キャリア発達の促進に加えて、大学生活を充実させる基本的態度やスキルの育成を促進しているといえるだろう。4.2短期集中型と長期分散型の教授法による変化のまとめ2コマ連続8週の授業形態である短期集中型と、1コマ16週の授業形態である長期分散型とで、「自己開拓」受講の心理的効果がどのように異なるのかを検討した。その結果、キャリア・アダプタビリティにおいては短期集中型の授業形態の方が、コントロール、好奇心、自信が受講後に高くなっていた。つまり、キャリア・アダプタビリティを向上させるためには、一つのテーマを一度に2コマかけてじっくりと考える必要があることが示された。また、コミュニケーション・スキルにおいては短期集中型の授業形態の方が、表現力と自己主張が受講後に低くなっていた。短期集中型で長い時間をかけてグループワークを行うと、コミュニケーションで問題が起こっても時間をおいて仕切り直すことができないため、コミュニケーションにおける葛藤を多く経験することとなる。このことから、短期集中型の方が、コミュニケーション・スキルを低く評価することにつながったと考えられる。これらのことから、「自己開拓」の効果を高めるためには、短期集中型の授業形態がより望ましいことが示唆された。4.3受講前後の学びへの期待および学びの意味づけによる変化のまとめ「自己開拓」を受講する動機づけや、受講したことによる意味づけによって、「自己開拓」の受講による効果はどのように異なるかを検討した。その結果、多くの心理的変化は、「自己開拓」受講における学びの意味づけの違いによって異なることが示された。特に、受講したことで自己理解の深まりとコミュニケーション・スキルの向上を感じられた学生は、自尊感情、進路選択に対する自己効力、時間的展望、キャリア・アダプタビリティが、受講前に比べて受講後に向上していた。「自己開拓」を受講した学生と受講しなかった学生とでは、自己効力では差が見られたものの、他のキャリア意識においてはほとんど差が見られていなかったが、「自己開拓」を受講した学生の中でも何を学んだかを明確に持てた学生は、キャリア意識も向上して―108―中部大学教育研究No.17(2017)

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