中部大学教育研究17
121/224

これらのことから、時間的展望においては受講理由による効果はみられず、受講に対する意味づけにおいて効果が見られた。「自己開拓」受講によって、自己理解の深まりを実感している学生は将来への希望が高まるが、意味づけができなかった学生は将来への希望が低まることが明らかになった。3.3.4キャリア・アダプタビリティの変化関心においては、意味づけにおいて有意な交互作用が見られたため、単純主効果検定を行った。その結果、受講後において意味づけなし群よりも自己理解群(p<.01)の得点が、意味づけなし群よりもコミュニケーション群の得点(p<.01)が有意に高かった。さらに、自己理解群においては受講前に比べ受講後の得点が有意に高かった(p<.01)。理由づけにおいては時期の主効果が有意傾向であり、受講前よりも受講後に得点が高くなる傾向が見られた。コントロールにおいては、講義理由と意味づけのどちらにおいても交互作用の有意傾向が見られたため、単純主効果検定を行った。その結果、講義理由においては自己理解群において受講前に比べ受講後の得点が有意に高かった(p<.01)。意味づけにおいては、受講後は意味づけなし群よりも自己理解群の得点(p<.01)が、意味づけなし群よりもコミュニケーション群の得点(p<.05)が有意に高かった。さらに、自己理解群においては受講前に比べ受講後の得点が有意に高く(p<.01)、コミュニケーション群では受講前に比べ受講後の得点が有意に高い傾向があった(p<.10)。好奇心においては、意味づけにおいて有意な交互作用が見られたため、単純主効果検定を行った。その結果、受講後は意味づけなし群よりも自己理解群の得点(p<.01)が、意味づけなし群よりもコミュニケーション群の得点(p<.01)が有意に高かった。自己理解群においては受講前に比べ受講後の得点が有意に高く(p<.001)、コミュニケーション群では受講前に比べ受講後の得点が有意に高かった(p<.05)。講義理由においては時期の有意な主効果が見られ、受講前よりも受講後に得点が高くなっていた。自信においても好奇心と同様の効果があった。意味づけにおいては有意な交互作用が見られたため、単純主効果検定を行った。その結果、受講後は意味づけなし群よりも自己理解群の得点(p<.01)が、意味づけなし群よりもコミュニケーション群の得点(p<.05)が有意に高かった。さらに、自己理解群においては受講前に比べ受講後の得点が有意に高く(p<.001)、コミュニケーション群では受講前に比べ受講後の得点が有意に高い傾向があった(p<.10)。その一方、意味づけなし群では受講前に比べ受講後の得点が有意に低い傾向があった(p<.10)。これらのことから、キャリア・アダプタビリティの変化は主に受講に対する意味づけによって異なっていた。特に意味づけできなかった学生のキャリア・アダプタビリティの発達は何らかの意味づけをした学生と比較してほとんど見られず、ネガティブな効果にすらつながることが明らかになった。3.3.5コミュニケーション・スキルの変化受講理由では、いずれのスキルにおいても交互作用は見られなかった。自己統制、表現力、自己主張でいずれも時期の主効果が見られ、受講前の方が受講後に比べて得点が有意に高かった。また、他者受容においては群の主効果が見られ、コミュニケーション群は理由なし群に比べて得点が低い傾向であった。意味づけでは、自己統制、他者受容、関係調整においては、交互作用および主効果は有意ではなかった。自己主張においては、交互作用は見られなかったが時期の主効果が見られ、受講前の方が受講後よりも有意に得点が高かった(p<.01)。表現力および解読力においては交互作用が有意であったため、単純主効果検定を行った。その結果、どちらのスキルにおいても自己理解群と意味づけなし群では、受講前と受講後の間に有意な差は見られなかった。しかしコミュニケーション群は、受講前の方が受講後よりも得点が有意に高かった(ps<.05)。これらのことから、コミュニケーション・スキルにおいても主に受講に対する意味づけにおいて効果が見られた。特にコミュニケーション・スキルの向上を実感した学生のコミュニケーション・スキルが、「自己開拓」受講によって低く評価されるようになることが明らかになった。4まとめ4.1授業前後の受講・統制群の変化のまとめ「自己開拓」を受講した学生と受講していない学生を比較した結果、2010年度から2015年度にかけて、「自己開拓」受講生の自尊感情の向上、進路選択に対する自己効力の向上、より広い時間的展望、キャリア・アダプタビリティの向上がほぼ安定的に見られてきた。2016年度においても同様の傾向は見られたものの、「自己開拓」の受講生のみならず非受講生も、半期終了時にこれらの心理的変化の向上が見られたことが、これまでの結果とは異なっていた。特に、これまでは「自己開拓」を受講することによって向上していた進路選択に対する自己効力やキャリア・アダプタビリティなどにおいて、受講の有無に関わらず向上が見られて―107―キャリア教育科目「自己開拓」の教育効果

元のページ  ../index.html#121

このブックを見る