中部大学教育研究17
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2-3頁、8頁)と述べられているようにTSFと類似の方向性への指向が見て取れる5)。国内においてはこれらの施策が大学の機能別分化6)を促進するための布陣であることは間違いない。しかし、他の先進諸国においても国際的な研究の卓越性を重視し、高等教育予算を重点的に配分せざるを得ない状況と実態は共通である。また、次世代の職業を担い、高度な市民社会を担う優秀な学生を育てるためにマス化、ユニバーサル化した大学教育の改善、充実が喫緊の課題であることも共通である。この研究-教育のジレンマが、各国とも共通に研究重点大学や教育重点大学の創設、機能別分化、TSFの導入を推し進めていると言えよう。本稿では、カナダに見られるTSFの定義やその業務の範囲、実際の任命や昇進の条件を概観するとともに、オンタリオ州とカナダおよび他の諸外国におけるTSF導入の共通の背景を探り、現状を俯瞰する。また、TSF導入にかかる主要な議論として、大学教員に二種類の形態(twotieredsystem)を持ち込むことによる大学教員の分断や、「教育と研究の両立」(有本、2011年、2頁)の理念の破壊、特に伝統的な教員の業務負担における研究と教育の連関(research-teachingnexus)に関する議論を紹介する。国内においては、近年半数近い大学・短大が定員割れ7)を起こしており、すでに教育を最優先して大学を運営しているところも数多く見られるなか、依然、教員自身の研究志向は諸外国に比べて相対的に高く8)、また、教員の採用や昇進における教育の重視は十分に明文化されていないのが現状である。それに関して、最後にオンタリオ調査の提言を踏まえて、日本の高等教育に対する提案が可能かについて議論したい。2カナダ及び各国のTSF制度の概観2.1カナダにおけるTSFの任命や昇進の条件カナダにおいてTSF制度が急速に拡大を見せた2008年、トロント大学のGravestockとGregorGreenleaf(2008)が、カナダの主要な44大学を調査した結果、四分の一強の12大学で同等の制度の導入が認められたと報告している(Gravestock&GregorGreenleaf,2008)9)。また、オンタリオ高等教育質保証協議会のVajoczkiらの報告書によると、2008年時点でそれに加えてマニトバ大学(UniversityofManitoba)のTSFの導入も確認されている(Vajoczkietal.,2011,p.11)。ただ残念ながらそれ以降の包括的な調査は見当たらず、拡大していることは間違いないものの現在のTSFの導入詳細は未確認である。またTSFの人数については、筆者がカナダのブリティッシュ・コロンビア大学(UniversityofBritishColumbia:UBC)で確認したところ、2015年の秋時点で255名のTSFが在職し、全専任教員2,336名の約11%を占めていた。他の教員についてはresearch-streamfaculty(RSF)と呼ばれるが、従来と同様に研究と教育双方に責任を負っている。TSFは制度として拡大しているが、特に研究重点大学においては人数としてそれほど大きな占有率に至っていないと言えよう。それは、2.2節でも述べるとおり、そもそもTSF制度の導入背景に教育の質を維持・向上させながら、研究に専念できる体制を作ることがねらいであったためである。TSF制度は、一部の教員(TSF)に優れた教育実践と先進的な教育関連研究を重点的に委託し、他の教員(RSF)はその分を研究に充当する仕組みであると考えられる。しかし、UBCでは、2011年7月1日にTSF制度に関して画期的な修正が加えられた。これまで講師、上級講師の二つの職位しかなかったTSFに、大学教員の一般的な職位と同様、教授(professorofteaching)という職位が認められることになった(UBC,2011)。教授への昇進には、研究に代わって教育的リーダーシップ10)や優れた教育、カリキュラム開発での業績が求められる。より新しい2014年度のTSFのテニュア資格と昇進のための規準は表1の通りである。同様の制度改革は2015年7月1日にトロント大学でも実施され、ここではこれまでの講師、上級講師に代わって、通常の大学教員の職位と同様の、助教授(assistantprofessor-条件付き,teachingstream)、助教授(同-テニュア,teachingstream)、准教授(associateprofessor,teachingstream)、教授(professor,teachingstream)の4つの職位が新たに導入された。現在、多くの大学で同様の制度改革が進んでいる(UT,2015)。2.2TSF導入の背景(オンタリオとカナダ及び各国の共通の背景)先述のVajoczkiらによると、オンタリオ州においては、高等教育に学ぶ学生の著しい増加とその教育に対する説明責任の強化、さらに高等教育に対する州予算の大幅な減少がTSF導入の背景にあるとする(Vajoczkietal.,2011,pp.5-8)。学生の増加に関するオンタリオ州特有のダブル・コホート11)と呼ばれる事態は別にして、高等教育に進学する学生の急増は、社会人12)や留学生の増加も含めて先進国共通に認められる現象であり、また、マス化もしくはユニバーサル化した大学における教育は、質的にも量的にもエリート段階から大きく異なることによる、教員の授業技術不足や負担増、学習成果に対する説明責任の強化もまた、各国共通の課題となっている。さらに、大学に対する目に見える研究成果の追求と、高等教育予算が相―2―中部大学教育研究No.17(2017)

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