中部大学教育研究17
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コミットメントが低下したことで、効果が低くなった可能性が推察された。第二の可能性として、教授法の違いによって教育目標が異なっていたことが考えられた。具体的には、従来の教授法では自己の心理的変化を、新規の教授法ではコミュニケーション・スキルの向上を重視していた。そのため、自己の心理的変化が顕著にみられなくても、コミュニケーション・スキルは向上している可能性が考えられた。そこで、新規の教授法2年目にあたる2015年度(佐藤・杉本,2016)においては、学生のコミットメントを測るため、学生が考える「自己開拓」で学んだこと(意味づけ)を類型化し、心理的変化との関連を明らかにした。その結果、どのような意味づけをされていても心理的変化に差はみられず、受講後はキャリア意識が高まることが示された。さらに、コミュニケーション・スキルの変化も指標に加え、新規の教授法の教育効果を検討した。その結果、特に言語的コミュニケーション・スキルは受講後に低くなることが明らかになった。このことから、「自己開拓」の受講によって、過大評価していたコミュニケーション・スキルの程度を適切に把握できるようになっている可能性が示された。以上のように、佐藤・杉本(2016)では受講の意味づけが「自己開拓」受講の教育効果に影響を及ぼしていることを明らかにした。このような、受講の意味づけといった受講後の心的状態だけでなく、何を学びたいと思っているのか、学べると思っているのかといった、受講前の心的状態である学びへの期待は、授業への取り組み方に直結し、異なる教育効果を生み出す可能性があるだろう。実際、高い学習への動機づけスタイルを持っている人は、課題に対する興味が高いことが示されている(岡田・中谷,2006)。そこで本研究では、受講前に持っている学びへの期待、および受講後の授業への意味づけが、異なる教育効果を生み出すのかを検討することとした。また、教授法の違いによる教育効果の検討はおこなったものの、授業形態の違いによる教育効果については未検討である。前述したように、「自己開拓」は現在、短期集中型(2コマ連続8週)と長期分散型(1コマ16週)の2型に分類される。短期集中型は、一つのテーマに対してグループワークを一度に長時間取れることから、学生の「自己開拓」の深まりを促すことができる。一方、長期分散型は、一つのテーマを2週にわたって行っている教授法であり、一つのテーマを一度に長い時間をかけて深める時間は足りないものの、1週目の内容を2週目でまた思い出して考える機会が得られる。一度に何度も同じ内容が反復される集中呈示と、内容を分散して覚える分散呈示とでは、分散呈示の方が内容がより学習されて思い出されやすくなる(北尾,2002)。このことから、長期分散型の方が「自己開拓」の内容をより記憶にとどめることができると考えられる。以上のことから、本研究では以下の3点について検討を行うこととした。1)2016年度「自己開拓」の教育効果の検討、2)短期集中型授業および長期分散型授業の授業形態の違いが「自己開拓」受講の教育効果に及ぼす影響の検討、そして3)受講での学びへの期待および受講後の授業への意味づけが「自己開拓」受講の教育効果に及ぼす影響の検討の3点である。調査内容および調査実施デザインはこれまでとほぼ同様の手法を用いた。2方法2.1事前・事後テストに使用した尺度以下の尺度を、「自己開拓」授業前後、および別の全学共通教育科目授業前後に実施した。ビッグファイブ・パーソナリティ本尺度は、小塩他(2011)、小塩他(2012)、佐藤他(2013)、佐藤他(2014)、佐藤・杉本(2015)、佐藤・杉本(2016)で使用したものと同一であった。「自己開拓」受講の学生の人格に特徴があるのか、また受講によって人格に変化が見られるのかを明らかにするため、パーソナリティを神経症傾向(情報的な不安定さ)、外向性(活発さ、社交性)、開放性(知的な柔軟さ)、協調性(やさしさ、利他性)、勤勉性(まじめさ)の5つの側面から測る、小塩・阿部・カトローニ(2012)による日本語版TenItemPersonalityInventory(TIPI-J)を使用した。TIPIは10項目で構成されており、「全く違うと思う(1点)」から「強くそう思う(7点)」までの7段階で回答が求められた。自尊感情本尺度は、小塩他(2011)、小塩他(2012)、佐藤他(2013)、佐藤他(2014)、佐藤・杉本(2015)、佐藤・杉本(2016)で使用したものと同一であった。自尊感情(桜井,2000)は、自分を肯定的に捉え、自信があり、自分に満足している傾向を意味する。この尺度は「私は、自分に満足している」「私はたいていの人がやれる程度には物事ができる」などの10項目で構成されており、それぞれの質問項目に対して、現在の自分に最もよく当てはまる選択肢を「いいえ(1点)」から「はい(4点)」までの4段階で回答させた。進路選択に対する自己効力本尺度は、小塩他(2011)、小塩他(2012)、佐藤他(2013)、佐藤他(2014)、佐藤・杉本(2015)、佐藤・杉本(2016)でも使用したものである。進路選択に対する自己効力尺度(浦上,1995)は、進路選択に対して認知された効力予期すなわち自己効力を測定する尺度であり、「自―100―中部大学教育研究No.17(2017)

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