中部大学教育研究17
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4.3就職ガイダンスによる支援効果「自己開拓」の受講者は、就職ガイダンスにより多く参加し、とくにキャリア教育を専門とする教員が担当した「自己開拓」の受講者は進路を決定にまでつなげている。すなわち、就職ガイダンスに参加し就職活動の準備がしっかりとできている者ほど、就職活動を上首尾に進め、その結果、内定を獲得できるというプロセスが考えられる。そこで、就職ガイダンスへの参加状況が進路決定に及ぼす影響についても補足的に検討した。その結果、連関がみられなかった杉本他(2014;2015)とは異なり、就職ガイダンスに積極的に参加する学生において卒業時点に就職の比率は高く、進路未決定の比率は低いことが示された。すなわち、就職ガイダンスに積極的に参加することが、進路未決定を抑制し就職を促すことが示された。本研究においても、杉本他(2014;2015)と同様に二群への分類基準として参加率の平均値を用いたが、参加率低群の人数が非常に少ない結果となった。これは、参加率が高い学生が非常に多かったこと、また参加率低群に分類された学生における就職ガイダンスの参加率が著しく低かったことが原因として考えられる。就職ガイダンスにほとんど参加しない学生は、進路選択をできれば回避したいといった進路選択に対して消極的な学生であることが考えられる(杉本他、2015)。本研究における就職ガイダンスの参加率低群は、これまで以上にそうした消極的な学生で構成されたために、進路未決定との連関がみられたものと考えられる。4.4キャリア教育を専門としない教員が「自己開拓」を教えることの留意点2012年度・2013年度は、中部大学における新教育改革の中で、全学共通教育科目にキャリア教育科目「自己開拓」を導入する第二段階にあたり、これまで担当していたキャリア教育を専門とする外部講師からキャリア教育を専門としない専任教員へと担当を移行が目標とされた。そこで本研究では、キャリア教育を専門としない専任教員が「自己開拓」を実施しても、キャリア教育を専門とする外部講師と同様の長期的教育効果が得られるかを検証した。その結果、キャリア支援課の実施する3年次の就職ガイダンスへの参加について、「自己開拓」の非受講者に比べ「自己開拓」を受講した学生は、担当教員のキャリア教育の専門内外にかかわらず、高い参加率を示したことから、キャリア教育を専門としない専任教員であっても進路選択行動の観点では「自己開拓」の長期的教育効果が得られたといえる。しかし、進路決定の観点では、キャリア教育を専門とする教員が実施した「自己開拓」の受講者ほど、キャリア教育を専門としない教員が実施した「自己開拓」の受講者は卒業時点の進路決定の比率が高いわけではなく、十分な長期的教育効果は得られなかった。こうした原因が、専門外の教員がキャリア教育という専門的な内容を教授することの困難さにあったり、アクティブ・ラーニング型の「自己開拓」プログラムの実施の困難さにあったりするのであれば、キャリア教育を専門としアクティブ・ラーニング型授業を運営できる専任教員を「自己開拓」の担当教員に配置することが一つの解決策といえるだろう。現代青年のキャリア形成の難しさから、高等教育の中でキャリア教育を行うことの重要性が指摘され、「大学におけるキャリアガイダンスの推進」が大学設置基準に定められたことを勘案すれば、授業担当者の能力・資質は十分に考慮するべきであろう。ただし、「自己開拓」は全学共通教育科目であるために、複数のクラスが設定される。そんな中、キャリア教育の専門家を十分に配置することは困難であり、どうしてもキャリア教育を専門としない教員の協力が必要となる。キャリア教育を専門としない教員が「自己開拓」を担当するためには、授業内容や授業形式に関する理解を促す研修が必要不可欠であろう。これまでも、全学共通教育科目のキャリア教育科目を担当する全学共通教育部の経営情報学部共通教育科では、キャリア教育科目の「自己開拓」と「社会人基礎知識」を担当する教員を対象として積極的にキャリア教育に関する研修を行ってきている。今後も、こうした研修を継続し、キャリア教育を専門としない教員であっても「自己開拓」の授業内容や授業形式に精通した授業担当者を育成していくことは、本学のキャリア教育にとって非常に重要であろう。5今後の課題本研究では、杉本他(2014;2015)と同様に、「自己開拓」の受講者において進路選択・決定において長期的な教育効果が認められるか検討し、とりわけキャリア教育を専門としない教員が担当してもキャリア教育を専門とする教員と同程度の長期的教育効果が見出せるかを検証した。その結果、進路選択行動の観点からは専門でない教員による授業であっても高い長期的教育効果を確認できたが、進路決定の観点からは十分な効果を確認できなかった。そのため、今後もキャリア教育に関する研修をキャリア教育科目の授業担当者に行っていくと同時に、キャリア教育を専門としない教員がキャリア教育を専門とする教員と同程度の長期的教育効果を生み出すことができるのか、IRの観点から検証していくことも重要であろう。こうした研修や教育効果の検証を重ね、キャリア教―96―中部大学教育研究No.17(2017)

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