中部大学教育研究17
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1はじめにキャリア教育科目「自己開拓」は、中部大学で2010年に新設された全学共通教育科目の1つであり、この科目は、社会に貢献するための基礎となる「自己の理解・自己の確立」を教育目標として掲げている(ハラデレック・林・間宮・小塩、2011)。本科目は、学部・学科を越えた学生同士のグループワークを中心とした参加型の授業形式を採用しており、受講学生は、大学卒業後の自律的な進路選択に向け、自己を深く開拓することとなる。その結果、自律的な進路選択を行う力を身につけた学生は、就職活動を積極的に行い、内定を獲得するといった長期的な教育効果が期待されている(杉本・佐藤・寺澤、2015)。日本の高等教育機関において、IR(InstitutionalResearch)の重要性が指摘されて久しいが(高橋・星野・溝上、2014)、「自己開拓」においても客観的に教育の質保証を行うことが念頭に置かれ、さまざまな指標を用いた教育効果測定が実施されてきた。授業が始まった2010年度秋学期から授業前と授業後の2時点で質問紙調査を行い、受講生の授業を通した短期的な教育効果の検証を継続的に実施してきた。その結果、受講生は「自己開拓」を受講することによって、自尊感情や進路選択に対する自己効力を向上させ、時間的展望を将来に向けるようになり、より広い時間的展望、そしてキャリア・アダプタビリティを発達させるといった短期的教育効果が2015年度までの6年間一貫して示されている(小塩・ハラデレック・林・間宮、2011;小塩・ハラデレック・林・間宮・後藤、2012;佐藤・小塩・ハラデレック・林・間宮、2013;佐藤・小塩・ハラデレック・林・間宮、2014;佐藤・杉本、2015;佐藤・杉本、2016)。また、1年次の「自己開拓」受講時点から卒業に向けたキャリア発達や進路選択・決定といった長期的な教育効果についての検証についても、「自己開拓」1期生が卒業を迎える2013年度から行われている。その結果、「自己開拓」1期生において、1年次に「自己開拓」を受講した学生はキャリア支援課(キャリアセンター)が主催する3年次の就職ガイダンスに積極的に参加し(杉本・佐藤・寺澤,2014)、「自己開拓」1期生および2期生において、大学卒業後の進路を決定していることが、受講しなかった学生との比較から明らかとなった(杉本他、2014;2015)。このように、キャリア意識の発達、進路の選―91―専任教員によるキャリア教育科目「自己開拓」実施の長期的教育効果-キャリア教育を専門とする教員と専門としない教員の比較から-杉本英晴*1・佐藤友美*2・寺澤朝子*3要旨本研究では,キャリア教育を専門としない専任教員によるキャリア教育科目「自己開拓」の長期的教育効果の検討を行った。「自己開拓」を受講していない学生と比較すると、キャリア教育を専門とする教員による授業を受講した学生と同様、キャリア教育を専門としない教員による授業を受講した学生は、キャリア支援課が3年次に実施した就職ガイダンスへの参加率が高く、進路選択行動を積極的に行っていることが明らかとなった。しかし、卒業時点の進路決定状況については、キャリア教育を専門としない教員による授業を受講した学生は、キャリア教育を専門とする教員による授業を受講した学生と同水準では進路を決定できていなかった。この結果は、「自己開拓」の授業内容の専門性の高さやアクティブ・ラーニング型の授業形式の困難さによって、学生のキャリア形成を十分に促すことができなかったためと考えられる。今後、全学共通教育科目であるキャリア教育科目「自己開拓」の担当は、主にキャリア教育を専門としない教員へと移行していくため、専門家を配置したり研修を行ったりすることの重要性が指摘された。キーワード教育効果測定、キャリア教育、キャリア教育の専門性*1駿河台大学心理学部講師*2九州工業大学教養教育院准教授*3経営情報学部経営総合学科教授

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