中部大学教育研究16
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特徴によって、このようなコミュニケーション・スキルの得意さの低下が起こった可能性がある。「自己開拓」は、グループワークによる講義であることがシラバスでも明記されているため、この講義を選択する学生はそもそも他者とのやりとりにある程度自信のある学生が多いと考えられる。そのため、事前の時点から、統制群の学生よりも比較的コミュニケーション・スキルが高いと推察される。また、人は自分にとって重要である物事により注意を向ける確証バイアスを持っている。学びの意味づけとしてコミュニケーション・スキルを学んだと答えた学生は、コミュニケーションを重要であると認識していた可能性があり、受講前から自分のコミュニケーション・スキルの高さをある程度把握していた可能性がある。一方で自己理解や意味づけなしの学生は、受講前には自分のコミュニケーション・スキルの高さの把握ができておらず、コミュニケーション・スキルを過剰に高く見積もっていた可能性がある。それが、コミュニケーションの機会が多く、必要性の高い「自己開拓」を受講することで、自分のコミュニケーション・スキルの程度を把握できるようになったと考えられる。さらに、得意の程度が低下した表現力と解読力は、コミュニケーション・スキルの中でも基本的な言語的スキルを担っており、そのほかの自己主張、他者受容、関係調整という対人的スキルを担っているという(藤本・大坊,2007)。「自己開拓」を受講した学生は特に、言語的スキルを過剰に高く見積もっており、また「自己開拓」受講により、そのスキルの程度を把握することが出来るようになったといえる。自分の理解状況を把握することで、学習が進む(Carrier&Pashler,1992)ことから、「自己開拓」は受講者自身のコミュニケーション・スキル、特に言語的スキルの程度を把握させる科目となっており、このような把握が今後の受講者のコミュニケーション・スキルの向上を促進させることが期待される。5今後の課題本研究では、キャリア教育「自己開拓」が、(1)キャリア発達を促し、学業や広い人間関係の構築の基礎となるような汎用的能力を育成し、(2)キャリア発達が比較的遅れている学生にも、キャリア発達を促進させる効果を持ち、(3)受講者自身のコミュニケーション・スキル、特に言語的スキルの程度を把握させ、今後の受講者のコミュニケーション・スキルの向上を促進させることが期待される科目であることが示された。ただし、これらの結果は受講した学生之外向性の高さによる可能性は否めない。したがって、今後はパーソナリティ特性を統制してもなお、同様の効果が得られるかを検討していく必要があるだろう。また今後は、こういった効果が短期ではなく長期的にも継続してみられるのか明らかにする必要がある。さらに、今後はよりキャリア教育「自己開拓」が学生にとってなじみのある科目になっていくことから、学生が多様化してくる。そのような状況を踏まえ、今回の学びの意味づけの仕方のように、学生の授業に対する態度などを指標として取り入れ、より細かく効果を検証し、効果的な授業につなげていくことが求められる。例えば、今回は学びの意味づけを事後に聞いていたが、何を学びたいと思っているのか、学べると思っているのかといった、事前に持っている学びへの期待は、授業への取り組み方に直結し、異なる教育効果を生み出す可能性があるだろう。文献Carrier,M.,&Pashler,H.(1992).Theinfluenceofretrievalonretention.Memory&Cognition,20,633-642.Creed,P.A.,Fallon,T.,&Hood,M.(2009).Therelationshipbetweencareeradaptability,personandsituationvariables,andcareerconcernsinyoungadults.JournalofVocationalBehavior,74(2),219-229.藤本学・大坊郁夫(2007).コミュニケーション・スキルに関する諸因子の階層構造への統合の試み.パーソナリティ研究,15,347-361.ハラデレック裕子・林芳孝・間宮基文・小塩真司(2011).新たなキャリア教育科目の効果(1)-「自己開拓」の概要と学生の成長-中部大学教育研究,11,43-47.Nota,L.,Ginevra,M.C.,&Soresi,S.(2012).TheCareerandWorkAdaptabilityQuestionnaire(CWAQ):Afirstcontributiontoitsvalidation.Journalofadolescence,35(6),1557-1569.大島すみか・石津憲一郎.(2015).自我同一性,時間的展望,心理的非柔軟性が大学生の無気力に及ぼす影響について富山大学人間発達科学研究実践総合センター紀要教育実践研究,10,1-10.小塩真司・阿部晋吾・カトローニピノ(2012).日本語版TenItemPersonalityInventory(TIPI-J)作成の試みパーソナリティ研究,21,40-52.小塩真司・ハラデレック裕子・林芳孝・間宮基文(2011).新たなキャリア教育科目の効果(2)-「自己開拓」による学生の心理的変化-中部大学教育研究,11,49-54.小塩真司・ハラデレック裕子・林芳孝・間宮基文・―87―キャリア教育科目「自己開拓」の教育効果

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