中部大学教育研究16
98/128

3.2.5コミュニケーション・スキルの変化自己統制、表現力、自己主張、他者受容、関係調整においては、交互作用および主効果は有意ではなかった。解読力においては交互作用が有意傾向であったため、単純主効果検定を行った(Fig.8.)。その結果、自己理解群と意味づけなし群では、事前よりも事後において解読力得点が有意に低くなっていた(ps<.05)が、コミュニケーション群では事前と事後の間に差は見られなかった。3.1.6において受講群と統制群を比較した際、受講群は受講後に解読力を得意に感じる程度が低くなったと判断していたが、そのように判断していたのは、授業を通じて自己を理解することができたと意味づける学生と、意味づけをできない学生であり、コミュニケーション・スキルが上がったと意味づけている学生は、そのような変化はないことを示している。Fig.8解読力の時期による変化4まとめ4.1授業前後の受講・統制群の変化のまとめ「自己開拓」を受講した学生と受講していない学生を比較した結果、2010年度から2014年度にかけて、「自己開拓」受講生の自尊感情の向上、進路選択に対する自己効力の向上、より広い時間的展望、キャリア・アダプタビリティの向上がほぼ安定的に見られてきた。2015年度においても、これらの結果と同様の結果が得られた。自尊感情の高まりによって自分を肯定的に捉えて自信を持てるようになり、進路選択に対する自信が持てるようになり、時間的展望、特に希望を持てるようになり、キャリアにおける変化への適応できる資質を高めることができていた。高い自尊心を持つ人は、親しい他者だけでなくあまり親しくない他者にも自発的に働きかけることができるという(柳澤・西村・浦,2010)。したがって、「自己開拓」を受講し自尊感情が高まることで、大学での人間関係が広がり、充実した大学生活を送れるようになると考えられる。また、時間的展望の希望が高い人は、学業意欲が高く、気力の低下が低く、大学での居場所なし感が低いことが示されている(大島・石津,2015)。したがって、「自己開拓」を受講して時間的展望の希望を持てるようになることで、大学適応や学業への積極的な取り組みも促進されるといえる。そして、進路選択に対する自己効力およびキャリア・アダプタビリティが向上することによって、自律的な進路選択が促される(Creed,Fallon,&Hood,2009)。これらのことから、「自己開拓」はキャリア意識を向上させ、キャリア発達を促すキャリア教育科目であると共に、学業や広い人間関係の構築の基礎となるような汎用的能力を育成する科目としての機能も果たしているといえるだろう。4.2学びの意味づけによる違いのまとめ講義で得られたことをどのように自分で捉えているか、その講義への意識によって、心理的変化の程度が異なるのかについて検討した。その結果、授業を通して得られたことについて言語化しなかった、またはできなかった意味づけなしの学生よりも、自己を理解できたと考える学生やコミュニケーション・スキルが身についたと考える学生のように、何かしらのポジティブな意味づけをしている学生の方が、いくつかの心理的変数の得点が高い傾向があった。これは、周りの環境や自分の状態を意味づけたり、言語化したりできない学生は、意味づけできる学生に比べて全体的にキャリア発達が遅れているということを示している。しかし、意味づけできない学生に対しては「自己開拓」の教育効果が見られなかったというわけではない。意味づけできた学生もできなかった学生も、同等に事前よりも事後の方が得点が上がっているためである。したがって、「自己開拓」は学びの意味づけができていない、キャリア発達が比較的遅れている学生にも、キャリア発達を促進させる効果を持つ授業であるといえるだろう。4.3コミュニケーション・スキルの変化のまとめコミュニケーション・スキルにおいては、表現力と解読力のみが事前と事後で変化があり、しかも「自己開拓」受講生はより得意に感じる程度が低くなるという効果が示された。講義内容による差が見られなかったことから、このような変化は講義目標による影響であるとはいえない。また、学びの意味づけによって差を検討したところ、コミュニケーション・スキルを学んだと答える学生以外の学生が、得意に感じる程度が低くなっていたことが示された。つまり、学生の内的―86―佐藤友美・杉本英晴解読力の平均値

元のページ  ../index.html#98

このブックを見る