中部大学教育研究16
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1はじめに中部大学で全学共通科目として開講されてきた、キャリア教育科目「自己開拓」は、開講6年目を迎えた。この授業は参加型ワークショップ形式で行われ、グループ活動を通して、学生のキャリア意識を変容させることを目指している(授業の構成および詳細な内容はハラデレック・林・間宮・小塩(2011)を参照)。これまでに、「自己開拓」の教育効果については組織的な調査が行われており、特に学生の心理的変化に着目して5度にわたる報告を行ってきた(小塩他,2011;小塩他,2012;佐藤他,2013;佐藤他,2014;佐藤・杉本,2015)。5年にわたる調査を総括すると、「自己開拓」の授業を受講することによって、受講生の自尊感情の向上、進路選択に対する自己効力の向上、より広い時間的展望が得られることが一貫して見出されてきた。さらに、2013年度より「自己開拓」を受講した卒業生を輩出するのに伴い、「自己開拓」を受講した学生と受講しなかった学生の、進路選択状況を比較する縦断的調査も実施している(杉本・佐藤・寺澤,2014;杉本・佐藤・寺澤,2015)。受講者は、4年間を通じてキャリア意識が内在化し、その結果進路未決定の割合が低くなることが示された。つまり、「自己開拓」を受講した効果は短期的な心理的変化にとどまらず、4年間を通してキャリア発達を促し、進路決定にもポジティブに働いていることが示されている。したがって、キャリア教育科目「自己開拓」は安定的にキャリア教育としての役割を果たしてきていると言える。「自己開拓」受講者数は年々増加傾向にあることから、キャリア教育科目として学生に定着してきていることがうかがえる。一方で、受講者数の増加によって授業形態を変更せざるを得ない状況になってきている。2014年度より、これまでの2回連続で8週間、計16回の授業形態に加えて、週1回16週間、計16回の授業時間形式も導入された。つまり、短期集中型の授業形式に加えて、長期分散型の授業形式も取り入れられるようになった。また、従来の教授法では1クラス40名での講義が限界だったが、より多くの学生が受講できるように教授法を改定し、1クラス60名で実施できる方法も採用した。つまり、少人数制と多人数制の授業構成が取り入れられるようになった。このような授業形式、および構成の変更が行われても、安定的にキャリア教育の効果が見られるのかは、引き続き検討していく必要がある。そこで2014年度は、教授法の違いによる検討も行った。その結果、従来の教授法の方が、効果が強く見られていた。その理由として、第一に60名クラスでは人数が多いため、学生の講義への参加度が低下したことで、効果が低くなった可能性が推察された。そこで、今後は講義への意識や意味づけも指標に含めて、この点について検討する必要性が指摘された。第二の可能性として、教授法の違いによって教育目標が異なっていたことが考えられた。具体的には、従来の教授法では自己の心理的変化を、新規の教授法ではコミュニケーション・スキルの向上を重視していた。そこで、自己の心理的な変化を捉える指標に加え、多様なコミュニケーション・スキルの変化も測定していく必要が指摘された。そこで新規の教授法2年目にあたる2015年度においては、学生の講義への意味づけ、およびコミュニケーション・スキルの変化も指標に加え、教育効果を検討することを目的とする。調査内容および調査実施デザインはこれまでとほぼ同様な手法を用いた。2方法2.1事前・事後テストに使用した尺度以下の尺度を、「自己開拓」授業前後、および別の教養科目授業前後に実施した。ビッグファイブ・パーソナリティ「自己開拓」受講の学生の人格に特徴があるのか、また受講によって人格に変化が見られるのかを明らかにするため、パーソナリティを外向性(活発さ、社交性)、開放性(知的な柔軟さ)、協調性(やさしさ、利他性)、勤勉性(まじめさ)の5つの側面から測る、小塩・阿部・カトローニ(2012)による日本語版TenItemPersonalityInventory(TIPI-J)を使用した。TIPIは10項目で構成されており、「全く違うと思う(1点)」から「強くそう思う(7点)」までの7段階で回答が求められた。自尊感情本尺度は、小塩他(2011)、小塩他(2012)、佐藤他(2013)、佐藤他(2014)、佐藤・杉本―79―中部大学教育研究№16(2016)79-88キャリア教育科目「自己開拓」の教育効果-2015年度の授業について-佐藤友美・杉本英晴

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