中部大学教育研究16
77/128

1はじめに看護者は、患者の身体的・心理的・社会的ニーズに応じて、日常生活の援助(洗髪や食事介助など)や診療の補助(注射や採血など)といったさまざまな看護技術を提供する。医療技術の高度化など看護を取り巻く環境は変化し、看護者に求められる看護技術は多様化・複雑化してきている。その一方で、患者の人権への配慮や医療安全への取り組みが強化され、看護者になる学習(看護基礎教育)過程の学生が臨地実習で行う看護技術の範囲や機会は限定され1)、臨地実習で看護技術を経験し、修得することは難しくなった。これらのことから、看護基礎教育における看護技術教育の充実は大きな課題となっている2)。学生が限られた時間で看護技術を修得できるように、教材や教員による実演(デモンストレーション)の学習効果などの検討がなされ3),4)、複数の方法を組み合わせて教育がされている。その中でも動画教材は、学習者に具体的なイメージを与え5)、繰り返し視聴でき、予習・復習など授業内容に合わせた活用ができる6)などの利点があり、動画教材を教育に有効に取り入れることが学生の看護技術の修得にとって不可欠である。これまでの看護技術の動画は、DVDやインターネット上のe-learningにて提供されてきたが、2015年頃から看護学の教科書には、タブレットやスマートフォン等で視聴する動画用アクセス先を記したものも刊行され、動画の提供形態や視聴方法にも急激な変化が見られるようになった。これらタブレットやスマートフォンなどの情報機器は、看護学生にとって学習に欠かすことができないものになってきており、これらの情報機器の利用を制限する時代ではなく、看護技術教育に、いかにこれらを有効に活用するかを考える必要性があるといえる。看護教育分野での情報機器の活用についての先行研究を見ると、タブレット型の教科書を用いた教育の効果に関する実践報告7)、タブレットで撮影した動画の技術教育への活用例8)など、教育の一部への活用例の報告に留まっている。そこで、本研究では、学生の情報機器の利用状況の実態と、e-learning教材やスマートフォンを用いた動画教材など看護学生の教材利用の傾向を明らかにし、より有効な情報機器と動画教材の活用について検討したいと考える。2目的本研究は、看護学生の情報機器を用いた動画教材の利用の現状を明らかにし、看護技術教育にこれらの教材を効果的に活用し、教育効果を高めるための示唆を得ることを目的とする。なお、本研究において、「情報機器」とはパソコン、タブレット、スマートフォンなどの情報にアクセスすることができる機器全般のことを示す。3研究方法3.1研究対象看護基礎技術の科目を履修している、看護系大学1校の2年次学生110名であった。3.2研究期間調査は2016年4月に行った。3.3対象者の学習状況および教材対象者は1年次後半に身体の清潔(洗髪や身体の清拭)、環境整備(ベッドメーキング)などの生活援助技術に関する科目(全15回、2単位、90時間)の履修を修了し、2年次前半から注射や採血などの診療の補助技術の科目(全15回、2単位、90時間)の履修を開始した段階である。対象者の受講している看護基礎技術の科目で利用している動画教材の特徴を表1に挙げる。該当大学では、教材A(QRコードで動画用Webページにアクセスし視聴する動画を記してある教材)、教材B(スマートフォンまたはタブレットにて専用アプリを使用して視聴する動画用アクセス先を記した教材)の2種類のテキストが、看護技術科目の教科書に指定されている。この2つの動画教材は、適宜視聴するように指導されている。授業では、講義形式で該当技術の基礎となる知識を学習した上で、教材C(教員が看護技術を実施しているe-learning上に提示されている動画であり、パソコンに動画再生ソフトをインストールして視聴する)を視聴して、技術を実施する上での根拠や気づいた点についての記載をする事前課題を実施する。その上で学内実習にて教員の指導の下に技術を実施して、別日に技術チェックを行い、技術の修得状況を確認している。―65―中部大学教育研究№16(2016)65-70看護技術教育における情報機器の活用に関する基礎調査夏目美貴子・宮内義明・新美純子・嶋﨑和代・早瀬良

元のページ  ../index.html#77

このブックを見る