中部大学教育研究16
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1はじめに平成4年に老人訪問看護制度、平成6年に訪問看護制度が施行された。そして平成8年の保健師助産師看護師学校養成所指定規則が改正された際に在宅看護論が追加となり、平成9年度入学生から在宅看護論が看護基礎教育カリキュラムに加わった。平成19年3月に厚生労働省で行われた「看護基礎教育の充実に関する検討会」では、看護師教育に新設された統合分野が示された1)。それによると、統合分野とは、基礎から専門分野に至るまで学習した知識を活用し臨床で実践するために、一般病床もしくは在宅医療等の現場における臨床の実務に近い環境の中で看護を提供する方法を学ぶ内容と明記され、在宅看護論がここに位置づけられた。中部大学生命健康科学部保健看護学科では、平成24年度生よりカリキュラムを変更し、在宅看護論を統合分野として位置づけて教育を行っている。本学科の在宅看護論では、地域で生活しながら療養する人々とその家族を生活者として理解し、在宅という環境で看護を提供する方法について、場の特性を考慮した看護技術に加え在宅ターミナルケアや在宅リハビリテーションに関する看護技術も理解できることをめざし教授している。カリキュラム変更後初めての在宅看護論臨地実習は平成26年度11月から始まった。過去約20年間における在宅看護論に関する動向は極めて展開が早く、教育機関はそのつど迅速な対応を求められている。各教育機関によって様々な教授法が考えだされ、在宅看護論臨地実習に関する議論が続いている。在宅看護論臨地実習に関する研究は、学習支援のための方法やツールの開発に関するものと、学生の学びや体験の内容から在宅看護論臨地実習を検討するものに大別される。前者は、たとえば、プロセスレコードを活用したグループカンファレンスの学習効果に関する研究2)や、対象理解や学習支援のためのアセスメントツールの開発に関する研究3)などである。後者に関しては多くの議論がなされており、たとえば、質問調査票を用いて学生の実習体験を把握し指導や実習内容を検討する研究4)、学生のレポートを分析して実習での学びを考察する研究5)6)などである。小路ら5)は、KJ法を用いて在宅看護実習を修了した学生80名分のレポートを分析した。小路らによると、学生は、在宅看護は生活の場で行われる支援活動であり、看護の視点からケアマネジメント・連携機能を活用しながら療養者やその家族の健康とQOLの向上を支えることだと考えていることが分かったという。綾部ら6)は、臨床実習後に在宅看護実習を履修した学生29名分のレポートを、意味のある単位でコードに分けてカテゴリーを抽出した。綾部らによると、学生は、訪問看護は生活の場で療養者と家族を対象にした個別支援であることや、チーム医療によって療養者や家族のQOLを支えていることを学び、実習を通して学生自身の看護観を再考させていることが分かったという。しかしながら、平成19年に在宅看護論が統合分野に位置づけられてからまだ10年たっておらず、ある程度の方向性を導くための十分な研究数はなく、いずれの研究も、今後の提言にまでは至っていない。日本では2025年に65歳以上の高齢者が全人口の3割を超えると予測されており、政府は、住居・医療・介護・予防・生活支援が一体的に提供される地域包括ケアシステムの整備、拡充を進めている。高齢者がその人らしく生活することをサポートするために、看護師はこのシステムの中で重要な担い手として位置づけられており、2025年には多くの訪問看護師が地域で活躍していると推測される。中部大学保健看護学科在宅看護学領域では、新カリキュラム後、このような日本の医療福祉ネットワークを見据えて、①訪問看護の利用者とその家族を地域で暮らす生活者として理解すること、②利用者が安定した療養生活を継続するための支援の在り方について理解すること、③生活に密着した支援について理解すること、④利用者とその家族の生活をサポートするために必要な社会資源や他職種との連携の在り方を理解すること、⑤専門看護職者としての姿勢を学ぶこと、という5つを目標に掲げて在宅看護論臨地実習を行っている。本研究では、看護学生の在宅看護論臨地実習での学びから教育の評価や今後の方向性を探り、今後の日本の医療福祉ネットワークを見据えた教育方法の検討の足掛かりを得たい。―39―中部大学教育研究№16(2016)39-45在宅看護論臨地実習における学生の学び-KHCoderによる分析-大谷かがり・小塩泰代・寺本由美子・堀井直子

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