中部大学教育研究16
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を立案する、の2つを学生に提示している。これらは2年生時に授業で学んだ内容を振り返る意図もある。事前学習によって整理された全身麻酔と術後合併症に関する知識は、学生の臨地実習への心と頭の準備に有効であり、その事前学習は臨地実習で大いに役立っていると考えられる。【基礎看護技術】ここでの学生の記述はいずれも基礎看護技術を応用し実際の臨床場面で活かすことにより、患者に合ったケアが実施できたという成功体験から改めて基礎看護技術の重要性を述べていた。【学内で体験した技術】ここでの学生の記述は、学生が学内で何を学び、それが何に生かされたかを詳しく記してあり、非常に生き生きとした記述が多かった。講義や実習での実物やモデルを用いた学習や、技術を習得したことは学生の記憶に残りやすい。記憶定着は講義形式5%に対し、実践した学習は75%も記憶にとどまりやすいといわれている3)ことからもリアリティのある実践形式の実習を多くとりいれた本学の取り組みの効果であると考える。現在、リアリティを追及でき、繰り返しトレーニングのできる高性能シミュレーターによる学習も看護分野では行われており、有効性が示されている4)。今後は周手術期患者の理解と技術習得のために積極的に活用することも検討していく必要があるだろう。以上の3つは「役立った知識・技術」であるが、どの項目も学内や事前学習の積み重ねの成果である。基礎を忠実に学んでおくこと、解剖や周手術期における知識を実習前にしっかり事前学習することは、学生にとって大変な臨地実習を乗り越える大きな武器となるということを裏付けている。【術後患者のアセスメント】ここでの学生の記述はいずれも、基礎知識は理解できていたが、それを複合的に関連させて考えることができなかった、または患者に何が起こっているのか、知識から結論付けることができなかったという特徴がある。これらの関連付ける、結論付けるという思考は、看護の経験が大きな影響を及ぼす。経験に乏しい学生は判断や対処のレパートリーにも乏しく、難しい局面では自らの身の処し方に四苦八苦し、患者の状況を冷静に見つめにくくなる5)。このアセスメント力の不足を補うためには、「状況を洞察することを助けること4)」が必要であり、実践経験が豊富な指導者や教員のタイミングの良い問いかけやアドバイスにより、患者のアセスメントを深めていく。中にはこの不足に気づけない学生もいる。一緒に観察を実施したり、学生から患者の状態の報告を受けたときに「今、この患者に何が起こっている?」と問いかけ、学生のアセスメントを引き出す働きかけが学生のアセスメント力の向上には有効ではないかと考える。【術後患者の反応に対応する知識と技術】ここでの学生の記述では、患者の反応から自分の知識や技術の足りなさを感じている記述が多い。教科書通りにやっても患者には通用しないということを体感し悩み、指導者や教員、さらには実習グループの仲間からアドバイスをもらい考える。そして、その患者のベストな看護を探っていく。これは臨地実習における看護の醍醐味そのものである。患者とのやり取りを通して初めて自分の看護の反応を得られる。その時に感じた知識・技術不足は、その後の学生の学習姿勢へ大きく影響する。患者からのネガティブな反応を前向きに捉え、明日の看護への糧とできるような働きかけが必要であろう。「不足していた知識・技術」はいずれも、臨地実習で習得しなければならない経験知に関するものである。流動的なリアリティの中にあっても学生の思考を保証し、学生に主体的な看護実践を保証することが学生を看護へ動機づけるための具体的指導方法の第1歩である6)。学生が安心して患者と向き合い、悩める環境をバックアップすることが大切である。7教育への示唆講義のみならず、学内でもリアリティのある環境を作り、体験を取り入れた教育は、臨地実習における学生の学びに良い影響を与えることからも、今後も積極的に授業形態として取り入れていくことが期待される。そして、学生がより能動的な学修ができるための工夫と取り組みが必要である。また、今回の分析結果を、これから臨地実習に臨む学生に示し、事前学習への取り組みの動機づけをすることも有効かもしれない。臨地実習では、学生が学んできた知識・技術を患者の安全を確保した上で十分に発揮できるように、教員と指導者が一丸となって学生をサポートしていくことが重要である。学生の思考や実習状況を把握しながら、良いタイミングで指導をするためには、臨地実習における教員の人員確保も重要である。文献1)文部科学省:臨地実習の在り方http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/koutou/018/gaiyou/020401c.htm2)樋口耕一.(2014).社会調査のための計量テキスト分析.ナカニシヤ出版3)LEARNINGPYRAMID.(2003).Instructor,113(3),94)阿部幸恵.(2016).医療におけるシミュレーショ―37―学生が臨地実習で必要と感じる知識と技術

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