中部大学教育研究16
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1はじめに臨地実習は、看護職者が行う実践の中に学生が身を置き、看護職者の立場でケアを行うことである。この学習過程では、学内で学んだ知識・技術・態度の統合を図りつつ、看護方法を習得する1)。学生は、対象者に向けて看護行為を行い、その過程で、学内で学んだものを自ら実際に検証し、より一層理解を深める。言い換えると、看護の方法について、「知る」「わかる」段階から「使う」「実践できる」段階に到達させるために臨地実習は不可欠な過程である1)。臨地実習では患者に学生が自ら看護を実践することにより、患者の反応に一喜一憂し、看護をすることの難しさと楽しさを感じると同時に、看護職者として、自分自身の「できること」「できないこと」を深く自覚させられる機会でもある。実習の終わりに自分の体験を振り返り言語化することは、「できること」から今までの学習成果を自覚し、「できないこと」から今後の自己の課題を見出すことができる非常に重要なプロセスである。また、教員にとっても、その記録は今後の講義、実習指導などの教育における学生への効果的な指導へのヒントになると考えられる。2本学の成人急性期看護学臨地実習概要中部大学生命健康科学部保健看護学科の成人急性期看護学臨地実習では、周手術期にある成人、あるいは健康障害の急性期にある成人を受け持ち、3週間の病院での臨地実習を行っている。学生は、患者と家族の健康問題を総合的に理解し、看護上の問題を解決する実習を通して、急性期及び回復期に必要な看護学の基礎的知識・技術・態度を修得する。4施設の総合病院で臨地実習を展開しており、受け持つ患者の主な診療科は、消化器外科、整形外科、婦人科、脳外科、呼吸器外科、乳腺外科、心臓血管外科など多岐にわたる。配属される病院、病棟によって対象となる患者の疾患は異なるが、実習期間中、学生は外科病棟に入院する周手術期にある患者を1~2名(患者の入院期間による)受け持ち、手術前から術直後、退院するまでの看護を行う。その他、複数受け持ち実習では急性期病棟における看護の優先順位や判断を学び、手術室や集中治療室(ICU)では1日見学実習を行い、それぞれの特殊な急性期分野の看護の特徴を学ぶなどの機会が設けられている。この3週間の臨地実習のまとめは(1)実習中の体験を通して発見したこと、理解し納得したこと(2)授業で学んだ専門知識や技術のうち臨床で特に役立ったこと(3)臨床場面で足りないと感じた専門知識・技術(4)臨床指導者の行動や振る舞いから学んだこと(5)患者の反応で印象に残ったこと(6)実習でこそ学べたと思うことという6つの視点から学生が最終のまとめの会までに記入する。まとめの会では、(1)~(6)までの個々の体験や学びを学生間で共有し、仲間の体験などから共通点、相違点を見出すなど比較検討を行うことや、新たな視点を得ることにより看護観を深める機会となる。終了後には(7)「まとめの会」での話し合いを終えて感じたことを記述する機会を設けている。すべての記述は、それぞれの項目に関する場面を想起し、具体的な内容を記述するように課せられている。3目的本稿の目的は、成人急性期看護学臨地実習を終えた学生のまとめの記録(2)授業で学んだ専門知識や技術のうち臨床で特に役立ったこと、(3)臨床場面で足りないと感じた専門知識・技術に着目し、学生が臨地実習で必要と感じる知識と技術について明らかにし、今後の教育への具体的な示唆を得ることである。4方法4.1対象と期間2015年11月から2016年7月までに成人急性期看護学臨地実習を履修し単位を修得した3年生、4年生計72名(男子学生8名、女子学生64名)分の「実習のまとめ」の記録を対象とし、分析を実施した。4.2分析方法学生が記述した「実習のまとめ」から「(2)授業で学んだ専門知識や技術のうち、臨床で特に役立ったこと」(以下、「役立った知識・技術」)、「(3)臨床場面で足りないと感じた専門知識・技術」(以下、「不足し―33―中部大学教育研究№16(2016)33-38学生が臨地実習で必要と感じる知識と技術-成人急性期看護学臨地実習後の記録から-荒川尚子・松田麗子・加藤有美滝沢美世志・江尻晴美・牧野典子

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