中部大学教育研究16
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ることができず、その場合より専門的な科目を2年次から履修するまでに至らないと考えられる。中には、所属学科の専門領域について学んでいく意義を感じることができていない学生もいるだろう。そうした学生は、専門性を問わないキャリア教育科目を履修することで、単位を充足したと推察される。4.2「社会人基礎知識」の長期的教育効果:進路意思決定に及ぼす影響まず「社会人基礎知識」の長期的教育効果として、進路決定に及ぼす影響について検討した。その結果、受講者の中で成績が優良でなかった学生は、4年次の12月時点で進路未決定の比率が高かった。一方、受講者の中で成績が優良であった学生は、非受講者と進路決定の比率に有意な差はみられなかった。そもそも受講者は、1年次の単位取得について比較的少ない学生の比率が高かったが、そうした学生は大学に十分適応できていなかったと考えられる。半澤・坂井(2005)では大学での学びを将来の職業と結びつけたいと考えながらも現実的にはそれらを結びつけることができないと、職業選択における目標の理解や把握の困難さや学習意欲の低下といった大学不適応に導かれることを示している。本研究においても、大学に十分に適応できていない学生は進路未決定の比率が高いと思われたが、実際に「社会人基礎知識」の成績が優良でない学生には予想通りの傾向がみられた。しかし、「社会人基礎知識」の成績が優良であった学生は進路未決定の比率が高いという傾向はみられなかった。このことから、「社会人基礎知識」を積極的に受講し成績が優良であった学生は、1年次までの大学への不適応から脱却し、大学に適応することで進路意思決定に積極的に取り組んだと考えられる。実際、「社会人基礎知識」の成績が優良でない学生に比べて、優良な学生は3年次の就職ガイダンスへの参加率が高く、進路意思決定に積極的に取り組んでいたと考えられる。とくに、1年次に単位取得を十分に行っていなかった学生であっても、「社会人基礎知識」の成績が優良であった学生は、3年次の就職ガイダンス参加率が7割以上だったことは注目に値する。「社会人基礎知識」は社会で働く際に必要な知識を獲得するだけでなく、自身の能力を高める計画を立てる力を獲得することも目的としている。そのため授業では、これまでの自分自身を振り返りつつ、今後について考える機会が多く設けられている。こうした授業での取り組みの中で、1年次に単位を十分に取得できなかった自分を振り返り、今後の学生生活、さらには進路意思決定をどう充実させていくか考えた結果が、本研究の知見としてあらわれたと考えられる。4.3「社会人基礎知識」の長期的教育効果:学業への取り組みに及ぼす影響さらに、「社会人基礎知識」の長期的教育効果として、卒業までの単位取得状況を検討した。その結果、1年次に十分な単位を取得していなかった学生において、「社会人基礎知識」の成績が優良だった学生はそうでない学生との間に1年次には単位取得数に差はみられなかった。しかし、2年次・3年次と授業の成績が優良だった学生はそうでなかった学生よりも単位をより多く取得していることが示された。本研究では進路意思決定について、1年次に単位を十分に取得できていなくても「社会人基礎知識」で優良な成績を修めた学生はそうでない学生と比べると、3年次の就職ガイダンスに参加し進路を決定していることが明らかにされた。そのため、1年次に単位取得不足であっても「社会人基礎知識」を受講することによって、学校不適応からの脱却を促す効果がみられると考えられたが、少なくとも学業の取り組みに関する学校不適応からは脱却していることが確認された。すなわち、学業に対して意欲低下を起こしているであろう学生に対して、「社会人基礎知識」が再教育の場として機能したと考えられる。「社会人基礎知識」では、大学で学ぶことや社会で働くことの意味を考えた上で、卒業後の進路意思決定に向け自身の能力を学生生活でどのように高めるかの計画を立てていく。そのため、たとえ1年次に単位取得ができず大学に十分適応できていなかった学生であっても、「社会人基礎知識」を積極的に受講した学生は、大学で学ぶことや将来働くことの「意味」を再構築し、大学生活に自分なりの意義を見出し、リスタートを成功につなげることができたと考えられる。なお、1年次に単位を取得していた学生においても、単位取得数に関して、「社会人基礎知識」の成績が優良だった学生とそうでない学生との間に1年次にみられなかった差が2年次・3年次で確認され、授業の成績が優良であった学生はそうでなかった学生よりも単位をより多く取得していることが示された。単位取得数の平均値を勘案すると、1年次に単位を取得していた学生の場合、「社会人基礎知識」の成績が優良でなかった学生が単位を取得できなかったというよりは、成績が優良であった学生がより積極的に単位を取得したため見出された差であろう。1年次に単位を取得し「社会人基礎知識」の成績が優良でなかった学生は、就職ガイダンスへの少ない参加で進路決定をしていることから、効率重視で学生生活を送っている学生であると考えられる。―29―キャリア教育科目「社会人基礎知識」の長期的教育効果

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