中部大学教育研究16
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あろう。本研究により、「社会人基礎知識」の長期的な教育効果が実証されるのであれば、本授業をより多くの学生が受講できるよう課程内に拡充することで、本学全体の就職率向上や学業を通した大学適応促進、さらには退学率の低下に資することが期待できる。一方、教育効果が明確に示されない場合であっても、教育効果がどの側面でみられないのかが明らかになるため、本研究結果をもとに授業内容を適切に改善していくことができる。このように本研究は、本学におけるキャリア教育の今後の方向性を定める上でも非常に意義があるといえよう。2方法2.1調査対象者調査対象者は、2010年度・2011年度に入学し「社会人基礎知識」を受講して2013年3月・2014年3月に卒業を迎えた学生87名(所属学部:工学部・経営情報学部・国際関係学部・人文学部・応用生物学部・現代教育学部)と、同時期に卒業を迎え卒業までに「社会人基礎知識」を受講しなかった学生から無作為抽出された282名(所属学部:工学部・経営情報学部・国際関係学部・人文学部・応用生物学部・現代教育学部)であった。学部事務室経由で質問紙調査が配布され、後日回収された。そのうち回答に不備のあった調査対象者と教職課程履修者を除き、「社会人基礎知識」を受講した学生85名(<「社会人基礎知識」受講群>)と卒業までに「社会人基礎知識」を受講しなかった学生270名(<統制群(非受講群)>)の計355名(「自己開拓」受講群:男性76名、女性9名;統制群(非受講群):男性207名、女性63名)を分析対象者とした。平均年齢は21.87歳(SD=.75)であった。2.2調査内容就職ガイダンスへの参加状況キャリア支援課(キャリアセンター)が主催した就職ガイダンスへの参加の有無についての情報を得た。なお、この就職ガイダンスは調査対象者が3年次に行われたガイダンスで、オリエンテーション、適職診断テスト、業界・企業研究、適職診断テストをもとにした自己理解ワークショップ、就職試験対策、履歴書ガイダンス、面接ガイダンス、SPI対策模擬テスト、学内企業説明会事前ガイダンスという構成であった。調査時点の進路状況調査時点の就職活動状況および進路先について回答を求めた。就職活動の状況(まだ行っていない、就職活動中、就職活動を終えた)について回答を得た上で、具体的な進路先について自由記述による回答を求めた。学業成績「社会人基礎知識」の成績と1年次から4年次までの年度ごとの単位取得数についての情報を得た。2.3調査時期・調査手続き学生が4年次の12月時点で調査を行い、就職活動状況と進路先に関する回答を得た。その上で、学業成績の情報提供について調査対象者に了承を得た。了承が得られた調査対象者について、就職ガイダンスの参加状況についてはキャリア支援課から、学業成績については教務支援課から、情報を得た。なお、本研究は個人情報の保護に十分に留意すべく、中部大学倫理審査委員会から情報提供に関する承認を得た(承認番号:250039)。3結果3.1「社会人基礎知識」受講者の特徴はじめに、「社会人基礎知識」受講者の特徴を検討すべく、受講群と統制群(非受講群)の1年次の単位取得状況との関連性について検討する。1年次の単位取得数の平均値(43.47単位)を基準として、単位取得の高群と低群に分類した。そのうえで、単位取得状況(高群・低群)×受講状況(受講群・統制群)のクロス集計を行った(図1)。その上で、単位の取得状況と「社会人基礎知識」の受講状況の連関を検討すべく、・2検定を行った。その結果、人数の有意な偏りが確認され(・2(1)=8.63,p<.01)、「社会人基礎知識」の受講者は単位取得低群の比率が高く、「社会人基礎知識」の非受講者は単位取得高群の比率が高かった(ps<.01)。すなわち、1年次の単位取得数が少ない学生ほど、「社会人基礎知識」を受講していることが示された。なお、単位取得低群における単位取得数の平均値と標準偏差は,受講者で38.58(SD=3.54)、非受講者で39.70(SD=3.45)であった。一方単位取得高群では、受講者で47.31(SD=2.76)、非受講者で47.63(SD=2.59)であった。3.2「社会人基礎知識」受講と進路決定次に、単位取得状況別に授業の受講状況と進路決定状況との関連性を検討する。社会人基礎知識の成績優良であったS/A群と優良ではなかったB/C/E群に分類し、1年次単位取得状況(高群・低群)別に「社会人基礎知識」の受講状況(S/A群・B/C/E群・統制群)×調査時点の進路決定状況(決定・未決定)のクロス集計を行った(図2)。条件別の未決定者・決定者率を検討するため・2―26―杉本英晴・佐藤友美・寺澤朝子

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