中部大学教育研究16
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5総合的考察人文学部全体の項目分析からは、入学直後は評定値の上位に否定的な項目が含まれていたが、1年間のIT教育後は、上位はすべて肯定的項目になったことが明らかとなった。また、20項目中16項目で春学期と秋学期の評定値に差があり、うち15項目が望ましい変化をしていたことがわかった。そして、不安緊張感、統制不能感、嫌悪回避感の3つの尺度の分析からは、1年間のIT教育により、新入生のコンピュータを操作する際の不安・緊張や、適切な操作を行えないといった統制不能感が低下することが明らかとなった。一方、コンピュータを操作することへの嫌悪回避感は1年間のIT教育によって低下しなかったものの、嫌悪回避感の評定値平均(SD)は春学期が2.76(0.89)、秋学期が2.75(0.91)と、5件法評定の中央値である3.0を下回っており、必ずしも高くはなかった。したがってこれらの結果は、2つの情報教室を活用した人文学部5学科のIT教育が有効だったことを端的に示していると言えた。ただし、嫌悪回避感の評定値平均は不安緊張感より高かったため、次に、その原因も含めてより詳細な検討を行うべく学科別の分析を行った。学科別の分析からは、学科特有の利点や問題点が見出された。不安緊張感については、5学科の特徴はほぼ同じで、当初の予想とは異なり、5学科とも春学期、秋学期を通じてその評定値平均は中央値の3.0を大きく下回っていた。そして、春学期にやや高い傾向があった学科、年度の平均評定値は秋学期にことごとく有意に低下しており、5学科の新入生は、比較的頻繁に情報教室でコンピュータと接したことで、コンピュータを操作することへの不安や緊張はほとんどない状態になったことがわかった。学科特有の利点や欠点が明確になったのは、統制不能感の評定値の変化からであった。英語英米文化学科の統制不能感は2011年度と2012年度には春学期から秋学期にかけて低下していたが、2013年度以降の3年間に変化が少なかった。英語のオンライン教材の導入が統制不能感が低減しなかったことに影響していると思われるが、来年度からは2011年度と2012年度の教育を参考にしつつ、統制不能感が低減するような新たな工夫を考える必要がある。歴史地理学科の統制不能感は、2014年度と2015年度に秋学期に低下していた。よって今後は、統制不能感を低減させることができた2014年度と2015年度のIT教育を今後も継続・発展させることが望まれる。コミュニケーション学科の統制不能感は、2011年度を除き、2012年度以降の4年間すべてで低下し、特に最近3年間の低下が著しかった。よって今後は、過去4年間のIT教育を継続・発展されることを望みたい。日本語日本文化学科の統制不能感は、理由は不明だが2014年度の入学直後が突出して高かった。しかし、秋学期に統制不能感が低下したため、その問題は解消されたようだ。よって今後は、統制不能感が高い学生が入学する可能性を知った上で、過去4年間のように統制不能感の低下を目指すIT教育を継続、発展されることが望まれる。心理学科の統制不能感は、2011年度からの5年間、一貫して秋学期に低下していた。よって今後もこれまで通り、統制不能感を低下させるようなIT教育を継続させるべきと考える。嫌悪回避感については、冒頭に記したSimsek(2011)の知見から考えて統制不能感の評定値との共変が予想されたが、統制不能感の変化に比べて変化が少なかった。若干の共変が認められたのは英語英米文化学科と日本語日本文化学科だけだった。ただし、英語英米文化学科では2011年度と2012年度の秋学期に統制不能感と嫌悪感がともに低下したものの、統制不能感は他学科に比べても大きく低下したのに対し嫌悪感の低下の仕方は少なく、低下した秋学期の嫌悪感も他学科に比べて低くなってはいなかった。日本語日本文化学科では2014年度に統制不能感と嫌悪回避感が春学期より低下したものの、これは春学期の両評定値平均が他の年度より高かったためであり秋学期の評定値が他の年度より低くなったわけではなく、加えて、嫌悪回避感の低下幅は統制不能感よりかなり小さかった。そして、心理学科では逆に、統制不能感は毎年秋学期に低下したにもかかわらず、2014年度と2015年度の嫌悪回避感は低下しないどころか、2011年度より高くなっていた。このように、嫌悪回避感の評定値には、人文学部の5学科すべてであまり望ましい変化が認められなかった。その原因は何なのか。考えられる可能性は2つある。1つは、嫌悪回避感は、比較的変化しない個人的特性の1つで、少しできるようになったからと言って、好きになるほどの変化が生じない可能性である。しかしこのように考えた場合、これを教育で改善するのは難しいということになってしまう。もう1つは、例えば、コンピュータで統計処理ができるようになったからと言って統計処理が好きになるわけではないと言ったように、教育内容が難しいため操作能力が高まっても内容自体への嫌悪感が低下しなかった可能性である。もしもそうならば、今後は、難しい内容・題材をコンピュータで処理する操作能力を高めることだけに重点を置くのではなく、操作自体が学生の興味を引くような内容・題材を取り入れる必要があるのかもしれない。今後は、本研究で得られた示唆をもとに、2つの情―23―新入生のコンピュータ不安低減へのIT環境・教育の効果の検討新入生のコンピュータ不安低減へのIT環境・教育の効果の検討

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