中部大学教育研究16
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巻頭言科学の類型と研究方法の位置付けここに「中部大学教育研究」第16号を発刊することにしました。特別寄稿として沖裕貴教授(立命館大学教育開発推進機構教授、本学客員教授)から、“日本の高等教育における「学生参画」の概念の再整理の試み”を執筆いただきました。厚く御礼申し上げます。ところで、5年前の東日本大震災や原発事故以来、国民の科学研究や科学者に対する信頼度が落ち続け、根拠の乏しい言説が跋扈し社会が不安定化しつつあります。これには、科学や科学研究の進め方にもそれなりの未熟さや弱点を残し、社会や時代の求めに適切に応え切れていないことも否めません。このあたりで科学者は一息入れて、科学や研究のあり方について自問自答することにしたらどうでしょう。私は、科学を2つ大きな類型に分けて、自らが進めている科学の可能性と限界を正しく理解すべきだと思っています。1つは物理学を中心とした自然物(生命や社会を含む)世界の存在や運動を理解する認識科学類であり、もう1つはプログラムを秩序原理とした物的、社会的、精神的な人工物世界を構想・作出する(人工物)設計科学類です。認識科学類は発見によって、設計科学類は発明によって科学知の拡大と深化をもたらしています(山下、2004年)。一方、科学研究の方法論としては、理論研究と実験実証研究との2つが活用され、それぞれが補完関係を持って新たな科学知を創出してきました。これらの方法論は、時空を超えて何時でも再現できる事実を解明するために有効な方法論です。しかし、近年、大震災や環境変動のような歴史的な時間に拘束されて逐次的に起こる事象を科学として取り上げ、科学的な解を求めるための新たな研究方法論の開拓が求められています。その1つに「フィールドサイエンス研究」があると、私は考えています。前提条件や境界条件を設けず、経時的な変化の中で問題とする事象を観察、調査、記載し特定する研究方法です。この方法論はすでに天文学、気象学、地震学、進化学、生態学、歴史学、疫学等の多くの分野で活用されています。ところで、本研究報告に掲載された研究の多くは、設計科学類に属し、フィールドサイエンス研究方法論を援用して得た成果を報告しています。その成果は対象とした限られた事象を理解し、その問題点を改善するための方策を提示している点で貴重なものといえます。このような研究の積み重ねが「現場改善のための研究」に繋がると思います。本号の企画、編集を担当されました大学教育研究センター長始め編集委員の皆さまに感謝いたします。2016年12月中部大学長山下興亜

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